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 卒業まであと一年。四年間、何とかAクラスにいることができたのは、我ながらよく頑張ったと思う。

 ジョアン様はご両親の働きかけで最終学年も学校に残れることになり、一緒に卒業できることをみんなで喜び合った。


 四年目になっても私が本館に行くことは滅多になかった。後から来た下宿人達が本館に呼びつけられているのを何度か見たけれど、私だけはほとんど呼ばれることはなく、呼び出された時も本館を出るまで必ず誰かがついていて、まるで本館の他の場所に立ち入らないよう監視されているかのようだった。そこまで敬遠する理由が本当に元孤児だからなのか、それさえもわからない。

 それもあと一年でおしまい。早く領に帰りたい。できればその時にはオリヴァー様との婚約が決まり、一緒に戻れたなら…。


 試験にレポート、卒業に向けて課題を終えていく毎日。名残惜しいなんて感傷に浸る暇もないくらい、卒業するためみんな必死だった。




 卒業まであと二ヶ月という頃だった。

 ある日を境に本館で人の動きが慌ただしくなった。本館に立ち入らない私でさえわかるほどの変化で、エリンにさりげなく聞いてみると、本館に目をやったまま

「身の回りにお気をつけください。…今まで以上に施錠に気をつけて」

 教えてくれたのは、それだけだった。


 時々本館で行われていたパーティ。私は参加することはなかったけれど、その日はいつになく賑やかだった。何かお祝いでもあったのかと気にはなったものの、本館には行ってはいけない決まりだったので落ち着かないながらも部屋で本を読んで過ごしていた。

 

ノックの音がした。こんな時間に何だろう。

「エリンです」

「エリン?」

 扉を開けると、エリンは周囲を気にしながら小声で話しかけてきた。

「念のためお部屋を移動してください。今日一日で構いません」

 その様子が普通ではないので、私は本だけ持って一緒に部屋を出た。もちろん部屋には鍵をかけて。


 二つ隣の空き部屋に案内され、

「今日はこちらでお休みください。しっかりと施錠して、明かりはつけず、朝まで誰か来ても決して開けないように」

 明かりがつけられないとせっかく持ってきた本も読めないけれど、仕方がない。理由は教えてもらえないながらも、エリンは信頼できる人だ。言われた通り明かりをつけることなく、その日はその部屋で寝ることにした。


 夜もかなり更けた頃、ドアをこじ開けようとする音がした。この部屋ではなかったけれど、ガタガタと乱暴にドアノブが揺すられ、酔っ払ったような声で

「開けろー! 呼び出したのはそっちだろうが」

 そう言ってさらにドアノブを激しく回す音が聞こえてきた。

 今まで別館でこんな騒ぎが起きたことはなかった。パーティの時だって、宿泊する人はいても大抵二階が割り当てられ、学生のいる三階に人が来ることなんてなかったのに。

 騒ぎは五分ほどで、誰かが

「うるさいぞ!」

と叫ぶ声に音は止み、最後はドアを蹴る音がして足音が遠のいていった。

 一体何だったんだろう。怖くてなかなか寝付けなかった。


 翌朝、私の部屋のドアに蹴ったような靴の跡がついていた。ドアノブががたついていて、無理矢理開けようとしていたのは私の部屋だった。

 もしあのまま部屋にいて、うっかり開けてしまっていたら…。

 怖くてたまらなくなった。


 階段から東にいる男子学生達に、

「昨日のあれは何だったんだ?」

と、まるで私が悪いことをしたかのように言われた。

「昨日は別の部屋で寝ていたんだけど…、朝、部屋に戻ったらドアに蹴った跡があって…」

 こんな所まで酔っ払いが迷い込むなんてことは考えられないけれど、ドアについた靴跡を見てただ事ではないと思ってくれたみたいで、次からはパーティの時には三階に通じる階段室のドアを施錠し、何かあれば見廻ってくれることになった。


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