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 お二人は今年卒業を迎え、もう半年もせず学校からいなくなる。

 卒業するまでの間、週に一度ほどお昼をご一緒した。初めはアッシュクロフト様がついてきていたのだけれど、そのうち

「いい加減邪魔者は消えるよ」

と言って遠慮されるようになり、それからは二人だけで会うようになった。


 ブルックス様のことをオリヴァー様と呼ぶことが許され、私のこともマリーと呼んでいただけるようになった。お互いのことを知りたくて、いろんな話をした。学校のこと、領のこと、友達のこと、そして私が両親の本当の子供ではないことも。オリヴァー様は

「大丈夫、ちゃんと子爵家令嬢として頑張っているよ」

と笑って言ってくださった。生まれを否定されることなく、自分のことを認められて嬉しかった。


 まだ婚約は確定しないのに、周囲から見れば私たちは恋人も同然だった。

 お昼だけでなく、時に勉強を教えていただいたり、街に出てデートしたこともあった。


 学校の近くにある池でボートに乗り、軽々とオールを動かす姿は見た目の柔らかさとは違って結構たくましく見えた。

「ちょっと目を閉じて」

 池の真ん中でボートを止めて、少し落ち着かない様子でオリヴァー様にそう言われ、言われるまま目を閉じると、私の首に手が回された。少し苦戦しながら留め金をつけようとしているのがわかった。胸に当たる重みからペンダントのようだった。

 プレゼントをつけてくれている。座っているのに走った直後のように心臓がドキドキして、それを知られるのがなんだか恥ずかしいような気がした。ようやく手の動きがなくなり、もう目を開けてもいいのかな、と思っていたら、軽く唇に触れるものがあった。

 驚いて目を開けると、オリヴァー様は真っ赤な顔をしていた。

「き、きっと君に似合うと、…思って…」

 金の金具に縁取られ、わずかに青みを帯びた乳白色の石が見えた。恐らく金色のチェーンにつながっているの、だろう、けど、つけてしまうと鏡がないと見えない。

「い、家に帰って、じっくり、見ますね」

「ああ、先に見せないといけなかったか!」

 慌てて外そうとしたオリヴァー様に、

「いえ! 今日は! …今日はこのまま、オリヴァー様につけていただいたまま…」

 そう言って伸ばされた手をつかむと、その手をつかまれて、もう一度、今度は少しだけ長く触れるだけの口づけをした。




 決して恋に溺れて堕落したなんて言われないよう、勉強は今まで以上に頑張った。むしろオリヴァー様のおかげで成績が伸びたと、そう言ってもらいたかったから。

 未来の旦那様は少し気の弱いところはあるれど、優しくおおらかな人。きっとこの人なら大丈夫。田舎の領だと軽く見たりせず、お父様のように領のみんなを大事にしてくれるはず。


 オリヴァー様の卒業の時は、もう学校で会うことはないのだと思うと寂しくなって涙がこぼれてきた。

 私の隣で、凜と振る舞っていたジョアン様も、ポロリと涙をこぼした。レイモンド様も卒業。寂しいのは同じ。

 そろって苦笑いした後、涙を隠すことなく手を取り合って泣いた。


 オリヴァー様は卒業しても会おうと約束してくださり、その後も手紙を交わし、月に一度は時間を作って必ず会うようにしていた。




 最終学年になる前に領に帰省し、聞いていいのか少し不安に思いながらも、オリヴァー様のことをお父様、お母様に尋ねてみた。


「私の縁談が進んでいるって、ちょっと小耳に挟んだのですが…」

「ああ、実は兄がこの領の跡継ぎにふさわしい人物を探してくれていてね。私達もまだ聞いてはいないんだが、おまえには話があったのかい?」

 私はともかく、お父様、お母様のところに話が行ってないなんて、ちょっと不思議だけど、

「…いいえ、伯父様からは何も。お相手の方が私の名前が婚約者候補に挙がったと聞いてこっそり会いに来てくださって、それで、…その後も時々会うようになって…」

 オリヴァー様とのことをどう話せば良いか戸惑っていると、お父様も察したらしく、

「いい人なんだね」

「…はい」

 恥ずかしくて少し俯いて頷くと、お母様も

「あらあら、そんなことになってるなんて…」

と驚きながらも笑顔を見せた。

「それにしても…。まだ候補だからお話がないのかしら」

「そうだな。卒業までまだ一年あるとは言え、話が進んでいるなら是非聞かせてもらいたいな。…今度王都に行った時に聞いてみるか」


 両親にオリヴァー様の名前をお伝えし、もしその名前が出たら、私はお受けする気持ちがあることを伝えると、両親は笑って頷いてくれた。


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