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二年生になってもAクラスをキープできた。我ながらよく頑張ったと思う。帰省した時にお父様、お母様からたくさん褒めていただき、ご褒美に隣の領のお祭りに連れて行っていただいた。石造りの遺跡の前で星空の下行われる厳かな儀式。それとは正反対ににぎやかな出店。花火も打ち上げられてとても素敵だった。
授業に関心のなかった五人のうち二人はB、Cクラスになり、一人は学校からいなくなっていた。テストの成績が良かったのは替え玉だったらしく、伯爵家のご令嬢だったけれど不正は許されず退学になった。学校は身分に影響されることのない平等な場所。頑張ればきっと認められる。そう思うと励みになった。
Aクラスに残った二人は二年生になってからはそれなりに授業を受けるようになっていた。内容が高度になって、授業を聞かなければついていけなくなったのかもしれない。
私も予習や復習に手を取られることが増えて、兼業で伯爵家の仕事もしているマシューさん達は本当に優秀なのだと感心せずにはいられなかった。
そのマシューさんは、卒業の半年前に他家の執事見習いになることが決まった。もう一人、今年卒業するジェシーさんも伯爵家には残らず、二人とも伯爵様に指定された家で仕事に就き、この先五年間は仕える家を変えることは許されない、そういう契約になっていた。
まるで斡旋業者のよう。伯爵様にとって修学支援は慈善事業ではなくビジネスなのかもしれない。
長期休みにジョアン様に誘われて、ジョアン様の別荘に伺った。いつも仲良くしていただいている五人で領にある避暑地のおいしい乳製品や果物をいただき、湖でボート遊びをして楽しく過ごし、夜にはパジャマで集合し、おしゃべりを楽しんだ。
既に婚約者が決まっている方はジョアン様を含めて三人いて、ナタリー様も目下お見合い中。冷やかし半分で話を聞いたところでは、お相手は悪くない方で、このまま決まりそう、とのこと。
「あなたはどうなの? 学校でも全然そういった話がないけど」
突っ込まれたところで、皆さんご承知の通り何の話もない私。
「うちは婿養子を取らなければいけないから、お父様、お母様にお任せしているの」
「大変ねー。私、お兄様がいてくださって助かったわ」
とはジェニファ様、伯爵家のご令嬢で、お兄様が三人いらっしゃる末っ子だとか。
「私は卒業と同時に結婚よ。ジョアン様もそうでしょう?」
ヘザー様がジョアン様に話を振ると、ジョアン様は少し表情を暗くした。
「もしかしたら、卒業を待たずに結婚することになるかもしれないの」
「ええっ!」
みんな声を上げた。だってジョアン様は今まで一度だって首位を逃したことがない才女、卒業式の代表になるのはジョアン様に間違いないのに。
「レイモンド様のお祖父様が、あまり婦女子が学校に行くことをよく思っていらっしゃらないようで、レイモンド様が卒業したらすぐに結婚しろ、私の卒業を待つ必要などないっておっしゃってるみたいなの」
「何それ、今時古ーい!」
ジェニファー様が自分のことのように怒っている。
「でもまだまだそういった考えをお持ちの方が多いのが現実よ」
「私はAクラスになれて喜んでるのに、お父様ったら『女がAクラスになると当たりが強くなるからほどほどに』って。一生懸命頑張っているのにそんな言い方されて、何だががっかり」
「でもお相手の方は理解があるのでしょう?」
「ええ。これから共に生きていくのに心強いって言ってくれてるわ」
ヘザー様はややのろけも混ぜながらも、ジョアン様の手をぐっと握ると、
「ジョアン様、きっと一緒に卒業しましょうね」
「ジョアン様がいないと寂しいわ」
私達はみんな大きく頷き、ジョアン様を応援した。笑って頷きを返すジョアン様。だけどそれを決めるのは大人。私達がどんなに願っても反対されれば従うしかない。ジョアン様のお父様、お母様は味方になってくださっているみたいだから、何とかみんな一緒に卒業できることを願わずにいられなかった。