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 以後、伯爵夫人の言いつけ通り私は本館に行かないようにし、用事があるときは侍女のエリンに用件を伝えてもらい本館の方々の指示を仰いだ。来いと言われれば行くけれど、伝言で済むならそれでおしまい。学校とこの部屋を往復する毎日ながら、別館に不足するものは何もなかった。


 別館には私の他にも学生がいた。みんな男子学生で、各学年一人か二人。階段を挟んで反対側の東側の部屋を割り当てられていた。いつも皆さん忙しそうにしていてなかなか話す機会もなかったのだけど、廊下ですれ違った時に挨拶すると足を止めてくれた。

「新入生か。…女子とは珍しいな」

「マリーベル・ソーントンです。伯爵様の弟の娘になります」

「俺はマシュー・デイビス、三年だ。なるほど、君は伯爵の青田買いじゃないんだ」

 マシューさんの知る限り、女子学生が下宿するのは私が初めてだった。そこはやはり伯爵様の身内ということで特別なのだろう。

「俺達は伯爵に支援してもらっているけど、その代わりに卒業した後も伯爵のところで五年間働かされる約束なんだ。今でも学校から戻ったら家人がやるべき書類の片付けを手伝わされているし、全くこき使うよ」

 伯爵様に対して少し愚痴を含みながらも、

「それでもこうして学校に行かせてもらえるのはありがたいからな…」

と感謝の気持ちも持ち合わせていた。貴族かよほど裕福な家の子供でもない限り、王都の学校にはそう簡単に進学できるものではなく、それだけに卒業すればその後の就職は引く手数多と聞いている。


 マシューさん達は学校が終わると本館で仕事をしているそうだ。私以外の人達は本館への出入りを制限されていないと聞き、伯爵様のニセモノの身内に対する警戒心を思い知らされた。


 別館では食堂で食事をとるけれど、朝は誰かいることがあっても夜は大抵一人だった。味はとてもおいしいのだけどちょっと寂しい。今まで一人で食事をしたことはなかった。養護院ではいつもみんなそろって賑やかで、時には取り合いすることだってあった。引き取られてからは両親がいて、その日にあったことをお話しする時間だった。いつも笑って話を聞いてくれたお父様、お母様…。寂しさに鼻につーんと痛みが走ったけれど、飢えることのないありがたさを思い出し、感謝して食べた。


 別館には無愛想ながらもてきぱきと働く侍女のエリンがいた。私専属という訳ではなく、別館にいる学生全員のお世話をしている。

 本館でパーティが開かれた時など、時々別館の二階の空き部屋に来客が宿泊することがあり、ゲストが多い時には本館から手伝いの侍女やメイドが来ることもあった。

 私は基本的なことは自分でできる。制服は一人で身支度できる作りだったし、普段着ている服もドレスではないから侍女の手を借りることはなかった。伯爵家の身内としては何でも自分でするのはきっと下品で恥ずかしいことなんだろうけれど、かといって専属侍女をつける気はないみたい。家でも私に侍女はいなかったから、気楽でありがたかった。


 エリンの手を患わせることは少ないと自負したいところだけど、時々朝の目覚めが悪く、エリンに起こしてもらうことがあった。でもそれは私だけではなかったみたい。朝はバタバタと慌ただしい音があちこちから聞こえてきた。


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