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 十二歳になってしばらくして、突然父に

「来年、王都の学校に行ってみないか」

と提案された。

 王都の学校に行かせてもらえるなんて驚きだった。


 私はまだ王都に行ったことはなかった。我が家には王都にタウンハウスはなく、王都に用がある時はいつも父の実家であり、伯父が継いでいる伯爵家のタウンハウスでお世話になっていると聞いていた。

「伯爵家では昔から優秀な子供の修学支援をしているんだ。兄がおまえを学校に行かせるべきだと言うのでね。おまえは成績も良く、真面目に頑張る子だから、王都で学ぶことはおまえのためになると思うよ。もちろん、試験に通れば、だが」

「行きたいです。…王都の学校、是非、行かせてください」


 その話を聞いてから私はさらに勉強に励み、無事入学試験に受かることができた。

 後で聞いた話では、爵位を持つ家の子供であればよほど成績がひどくない限り入学を許可されるそうだ。入学後の方が厳しく、クラスは試験の順位で決まり、私はAクラスに入ることができた。


 両親と離れて暮らすのは寂しかったけれど、夏と冬の休みには領に帰ることができる。四年後卒業すれば領に戻り、その頃までには私の縁談を調えると言われた。

 決して変な男の人に捕まらないように、と母は何度も繰り返した。若い娘が親元を離れ、華やかな王都で暮らすことになり、よほど心配だったのだろう。素敵な出会いなんてそう簡単にはないだろうけれど、学校は同じ年頃の貴族や裕福な家庭の子供が集まる場所。恋人でなくてもいいから、いろんな人と仲良くなれることを願った。




 学校には家が遠くて通えない学生のための寮があるのだけど、私は伯父の家から通うことになっていた。伯父の王都の屋敷は大きく、学校にも歩いて行けるくらい近いらしい。本音を言えば学生同士交流できる寮の方が良かったのだけど、わがままを言える立場ではない。学校に行かせてもらう限りは、スポンサーの意向に応えなければいけない。


「今日からお世話になるマリー-ベル・ソーントンです」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 伯父の家に着き、迎えに出た執事と思われる男の人は、私にチラリと視線を送るとすぐに奥へと案内してくれた。

 この屋敷の主人である伯父との挨拶もなく、本館を通り抜け別館に案内された。本館より少し古いけれど清掃は行き届いていて、三階にあてがわれた部屋は広すぎもせず狭くもなく、学生が一人で過ごすには充分だった。部屋には家から送った私の荷物が既に置いてあった。

「伯父様へご挨拶をしたいのですが」

「旦那様のお時間が取れましたら、ご案内いたします」

 私を案内してくれた執事は、一礼して去って行った。


 荷物を解き、部屋を片付けていると、一時間ほどして侍女に呼ばれ、本館の応接室に案内された。

 そこには伯父夫妻がいた。初めて会った伯父と伯母。並んで座る二人に笑顔はなかった。

「マリー-ベルです。このたびは就学の機会を与えていただき、ありがとうございます」

 できるだけ丁寧に挨拶をしたつもりだったけれど、返ってきた言葉は冷たかった。

「ふん。みなしごでも一応はマナーを身に着けているようだな」

 みなしご。あえてその言葉を使った伯父が私を嫌悪していることは疑いようもなく、本当にこの人が私を学校に行かせようと言ってくれたのか、疑わずにはいられなかった。

「我が家の名に恥じぬよう、しっかりと学問を身に着けることだ」

「はい。精進いたします」

「あなたは他の下宿人と同じく別館で過ごしてもらうわ。本館には呼ばれない限り、足を向けないように」

 伯爵夫人は扇で口元を隠しながらも、眉間に寄せたしわがくっきりと表れていた。修学を支援するのはあくまで慈善事業の一環に過ぎず、親戚であっても貴族の血が流れない私と良い関係を築くつもりはなさそう。弟の子供とは言え、孤児上がりの養子を警戒しているのかもしれない。

「承知しました。…四年間、お世話になります」


 私を引き取ってくださったのが今の両親で良かった。時間をかけて信用を得るしかないけれど、仮に信用されなかったとしてもどうせ仮の住まい。学校に行く間だけの一時の住処。感謝こそすれ、文句を言う筋合いはないのだから。

 父母のためにも伯父夫妻との仲をこじらせることのないよう、言われるままに距離を保ち、学校を卒業するまで乗り切ろう、そう心に決めた。


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