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 養護院を去る準備を始めた頃、エリックが養護院を訪ねてきた。

「あら、エリック、久しぶりね」

 エリックはシスター達に騎士のように礼儀正しく一礼した後、私の所にやってきた。


「よう。元気にしてるか?」

 私相手だと一転いつものエリックに戻った。

「よく私がここにいるってわかったわね」

「まあな」

 以前養護院への行き方を聞いたし、騎士団員なら領の中のことは把握できてるって事かな。もうちょっとで行き違いになるところだったけど。


「これ、おまえにって預かってきた」

 差し出されたのは上質な封筒に封蝋の押された手紙だった。送り主はジョアン様。

 ジョアン様は卒業後レイモンド様と結婚したはず。招待状をいただいていたのに結婚式に出ることはかなわず心残りだった。でも死んでしまった私なら恨まれることはないと思っていたのだけど、


  生きているなら、私にくらいは教えてほしかったわ!


 手紙は恨み言から始まった。


  あなたが生きていると聞いてどれだけ驚き、どれだけ嬉しかったことか!

  さすが私の親友。そう簡単にあんな子にやられたりはしなかったのね。

  私達は今、ウェントワース侯爵様の持つ領の一つを任され、新米の伯爵夫人として夫と共に領の経営を頑張っています。まだまだ私自身勉強中で、補佐してくれる優秀な人を探しているの。よかったら、うちの領に来て仕事を手伝っていただけない?

  あなたは貴族でなくなり、学歴を証明する物もないと遠慮するかもしれないけれど、あなたがいかに優秀かは私が一番わかっているもの。私もレイモンド様も大歓迎よ。

  いい返事をお待ちしてるわ。


       あなたの親友  ジョアン・ウェントワース



 ジョアン様、元気そう。

 全てをなくしたと思っていたけれど、まだつながっている人がいる。

 頬に涙が伝わってきた。


 私が手紙を読み終えるのを待っていたエリックは、泣き出した私に慌てることもなく、

「はい、次」

と別の封筒を差し出した。

 …私が死んでいないことが広まっているのかしら。

 それにしてもまとめて渡してくれればいいのに、何で一通づつ… 


 次の差出人はソーントン子爵様で、少し厚みのある封筒には子爵様から、そしてオリヴァー様からの手紙が入っていた。


  マリー-ベルへ


  あなたが生きていると人伝えに聞きました。

  あなたのいる場所は教えてもらえませんでしたが、手紙の取り次ぎを頼むと引き受けてもらえましたので、こうして筆をとりました。


  あなたを守ることができなかったことを心から悔やんでいます。力のない私達を許してほしい。

  その後、ソーントン伯爵家は爵位剥奪が決まりました。マリアの犯した罪が一番の原因ですが、マリアのことでお金を使いすぎ、領の運営もうまくいかず、大きな借金を抱えていたようです。幸い私達には咎めはおよばず、片田舎ではありますがこれまで通り領民と共に力を合わせていこうと思っています。


  図々しい申し出かと思いますが、あなたさえ許してくれるなら、ぜひ戻ってきてほしい。

  私達は、今でもあなたが学校に行っていて、休みになると戻ってくるような気がしています。長い、あまりに長い休みに、しびれを切らしています。

  共に暮らした日々を振り返れば、あなたは確かに私達の大切な子供でした。

  部屋はあの日のまま、あなたの帰りを待っています。

  どうか、良い返事をお聞かせください。


           ウィリアム・ソーントン

           イザベル・ソーントン



  親愛なるマリー-ベル


  君が生きていると聞き、本当に嬉しい。

  僕は今ソーントン子爵領で、君の両親から領のことを学びながら過ごしている。

  君も知っているとおり、偽物のマリアベルは捕まり、あのマリアベルとの婚約はなくなった。

  マリー-ベル・ソーントンがどんなに素敵な人か両親に伝え、婚約することを決めたのは僕だ。だけどまさか人を入れ替えるなんて、思いもしなかった。

  相手は別人と聞かされ、パーティで披露されて引くに引けなくなり、君を落胆させてしまったことを本当にすまないと思っている。

  偽物がいなくなって本当に良かった。僕たちはきっとやり直せる。

  子爵領はとてもいい所だね。君の育ったこの土地を一緒に守っていきたい。

  僕の両親も君でも反対はしないと言ってくれている。だから安心して戻ってきてほしい。

  君の帰りを待っているよ。


            愛を込めて   オリヴァー



 二通目は、溜息しか出ない手紙だった。

 …いっそ読まなければ良かった。


「他には、ないわよね?」

「うーん…」

 エリックは何故かチラチラと視線を窓の外に向けている。

「何?」

「…もう一通」

 渋々といった感じで渡された手紙には、差出人の名前はなかった。


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