10
その翌週、家に帰ると棚の本が一目見て誰かが触ったとわかるほどに上下ランダムに置かれ、ぐじゃぐじゃになっていた。部屋にはお掃除に入ってもらうことはあったけれど、私物を触られたことはなかったのに。
確認すると、お金とオリヴァー様にいただいたペンダントがなくなっていた。
エリンに相談したけれど、その日お掃除をした人は知らないの一点張りで、
「私を疑うなんて、ひどいです! ご自身がどこかに置き忘れただけではないのですか!」
と逆に責め立てられた。執事からは
「これ以上騒ぎにしないように」
と言われ、溜息と共に金貨を一枚渡された。お金だけの問題じゃないのに。
せっかく週末にオリヴァー様に会うのに。なくしたことをどう言い訳しようかと思っていたら、オリヴァー様から手紙が届き、週末の予定はキャンセルになった。
予定がなくなったのは初めてだったけれど、誰だって忙しい時はあるのだし、次の予定を知らせる手紙を待っていた。
次の手紙が来たのは二週間後、
もう会えない。
とだけ書かれていた。
私が婚約者候補ではなくなったのだと察した。
急に何故? 何があったの?
会って理由を聞きたかった。もう一年以上も一緒に時間を過ごしてきたのに、手紙だけでおしまい?
親が決めた婚約者候補でも会いに来てくれて、話をして、恋人として過ごし、お互い想い合っていると思っていたのに…。
出した手紙はそのまま戻ってきた。受け取ってももらえない。
淡い恋の夢から覚めた私は、ただ泣くしかなかった。
お父様にも手紙を出した。
一ヶ月後には領に戻るけれど、一人で戻ることになったこと。婚約者候補の話が突然なくなったようだけど、理由を知っていたら教えてほしい。
だけどなかなか返事は来ず、不安ばかりが心にのしかかってきた。