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8 嬉しい知らせ


「亜季ちゃんもお京さんの友だちなんだっけ?」

「うん。亜季ちゃんちはお兄さんがゲイなんだって。それでおうちのひととお兄さんがモメてたとき、お京さんにいっぱい相談に乗ってもらったんだって」

「そういえばだけど、お京さん、カノジョできたってよ」

「えっ? なんで?」


 びっくりしてあたしは顔を上げる。


「カレシじゃなくて、カノジョ?」

「別におかしかねえだろ。お京さん昔から自分でバイだって言ってたし」

「それ、口先だけだと思ってた。格闘家みたいなゴツめの男性がタイプじゃなかったの?」

「そっちの方が口先だけだろ」


 そうなんだろうか?


「お京さんのカノジョ、どんな人?」

「知らね。まだ会ってない。あっ、警察官だって聞いた」

「おまわりさん? どこで知り合ったの?」

「会いに行って直接聞けば? 亜季ちゃんと一緒にでもさ」

「そうする。てか連絡してみる」

「あと、ニュースがもう一個あってさ……」


 ええと、なんて司はちょっと言い淀む。


「なあに?」


 あたしは司のすぐそばに行って見上げた。

 知り合ってから1年と10ヶ月の間に、司の身長はずいぶん伸びた。あたしはとっくに成長が止まってるから、差は開く一方だ。ハタチになってもまだ伸びてるってうらやましいっていうか、もっとはっきりいうと妬ましい。


 あたしは平均身長よりかなり小さいからね。150センチとちょっとぐらい。出会ったときの司は160センチ台だったのになあ。5センチ以上伸びてるよね。一体どこまで伸びるんだろう。

 以前は梓にそっくりだった顔も、最近では瓜二つっていうほどには似ていない。前にも言った気がするけど中性的な感じが抜けた。いまちょうど20歳だから、あと数年でもう少ししっかりと男の人っぽくなるのかもね。


 一度息を大きく吸ってから司はこう言った。


「大ニュース。来年の1月に俺、お兄ちゃんになる」

「えっ?」

「弟か妹ができるんだ」

「司のパパとママに赤ちゃんが? ほんとにほんとに?」

「そう」

「やったー!!!」


 梓と司のお父さんは若い奥さんと再婚してる。奥さんにとっては初めての結婚で、初めての子ども。いや、結婚自体は2度目なのか。その人とお父さんは途中一度離婚して復縁してるの。


 お父さんとその人が一度離婚した理由は、お父さんが中学生だったころの司を殴っていたから。もしもお父さんが家庭内で暴力を振るうようなことがあれば離婚するっていう内容の取り決めを、結婚するときにあらかじめ交わしていたんだって。そんな取り決めをした理由なんだけど、お父さんが一度目の結婚相手とDVが原因で離婚していたせい。


 本当は殴られていた司の側に非があったわけじゃない。だけどそんな理屈はともかく、自分のことが原因でお父さんが再婚相手と破局してしまったことに関して、司本人はどこかで自分のせいみたいに感じてた。

 2年前、再婚相手の人がまだお父さんのもとに戻っていなかったころの、2人に対して負い目みたいな思いを抱いてどこか途方にくれていた司をあたしは知っている。

 だから、いま両親が無事に復縁できて仲良くしてくれているのは、心の重荷からの解放というか、そんな心理でもあるのだと思う。


 DVを働く人の更生はとても難しいといわれているけれども、司のお父さんの場合は典型的な加害者というのとはちょっと違っていたと思う。かつては最初の奥さんにモラハラされてたなどの複雑な事情が影響していたし、いまの奥さんがモラハラしてこないおかげで立ち直ることができている。


 きょうだいができることそのものもおめでたいことだけど、それ以上に、いまの司のパパとママがいろんな軋轢を超えて、司にとって幸せとか安心とかをもたらしてくれるものになっていることが、なにより嬉しい。

 両手を上げて飛び上がって喜んでいたら、ちょうど改札口を抜けてやってきた亜季に見られた。


「鞠乃、なんでこんな人混みでヘンテコダンス?」

「やっほー亜季! この人が夕べ話してた司だよ?」

「しかもすごいハイテンション。どしたの一体」


 亜季はちょっと怪訝そうな顔で司に会釈をしてから、あたしの浮かれっぷりにツッコミを入れてきた。

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