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7 裁判傍聴の日

 その日傍聴した裁判は2件。1件目は刑事事件で、2件目は民事裁判。刑事事件の方はけっこうグダグダで、裁判ってロジカルなやり取りのはずなんだけど、人間って切羽詰まると恐ろしく非論理的なことを言い出すっていうのがわかる裁判だった。ちなみに理に合わない主張はどんなに頑張っても無意味。判決は無慈悲にも至極まっとうだった。

 2件目は不当解雇に関する口頭弁論で、あたしにとっては1件目より理解するのが難しかった。判決は次回に持ち越し。司は日程が合えば次回も傍聴してどうなったかを教えてくれるって。

 人間観察っていう意味では裁判傍聴って有意義かもしれない。疲れるけど。それはもう、ものすごく疲れるけど。


 司にくっついて裁判傍聴に来たのはきょうで4回目。1度目が去年のあたしが高校2年から3年に進級する年の春休みで、次が高3の夏休みで、受験があったから半年ブランクが空いて、今年の春にもう1回。そしてきょう。

 きょうは疲れていたから本当に眠かったけど、あとで司はあたしの意見や感想を聞きたがるから、一字一句聞き逃せない。よって疲れた。このあと映画では寝るかも。


「亜季の見たい映画が裁判映画とかじゃないことを願うよ」


 亜季と落ち合う予定の駅の改札口のところで構内からあふれ出て来る人の波を確認しながら、ぼやくようにあたしは言った。


「何観たいのか聞いてねえの?」

「聞かなかった。夕べ夜中の2時に亜季から電話かかってきて、映画観ようかって話になったの。だからそこまで詳しくは聞かずに切った。詳しい相談してたら睡眠時間削られると思ったから」

「携帯、音消して寝たら?」

「んー、でも……」


 あたしは言い淀んで、聞き返す。


「司はいつもマナーモードにして寝てるの?」

「ああ。安眠の妨げになるから消してる。いろんなやつがいろんな時間に好き勝手に連絡してくるからさ」

「なんかできないんだよね、それ。もしかしたら緊急の連絡があったらと思うと怖くて」

「鞠乃は2年前のアズちゃんからの連絡が、トラウマなんだろ?」

「そんなこともないと思うんだけど……どうなんだろう? そうかも?」


 2年前に梓のママが大怪我したとき、夜明け前に梓が電話を掛けてきたことがあったからね。でも、トラウマっていうとちょっと違うんだけど。あの日、寝ぼけながらもあたしが梓の頼みごとを聞けたのは、マナーモードにしていなかったからだ。


「言っとくけどいまアズちゃんから緊急の連絡が入っても、浜松は鞠乃が飛んでいける距離じゃないぜ」

「そうなんだけどね。だけど梓がなんか相談したいって思った瞬間、つながってたいと思うんだよね」

「亜季ちゃんだっけ? アズちゃんとはタイプ違うだろ? 遠慮ないタイプみたいだから振り回されんな」

「あたし、振り回されてるかな?」

「夜中の2時に翌日映画観る相談してきたんだろ?」

「いーや、相談事はもっとくだらない内容だった」

「どんなの?」

「司がゲイじゃないかって。心配になったから確かめたいって」

「なんだそりゃ。一体なんの心配?」

「天体観測の予定についてだよ。亜季は男女の頭数を合わせたいみたいなんだよね。司がゲイなら男子カウントできないからって」

「うわ、くだらねえ」

「司がお京さんの友だちだって聞いたから、ひょっとしてって思ったんだって」


 2年間あたしに手を出さず、周囲にほかのオンナの影もなく、っていうところにはあえて触れないでおく。

 そのあたりは実は少々ビミョウな話題だと思うんだよね。いまのあたしたちのビミョウな感じを象徴するとでもいうのか。

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