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5 深夜2時の電話


「あのさ、鞠乃、一個聞きたいことがあるんだけど」


 亜季からそんな感じの電話が折り返しかかってきたのは山梨行きの相談をした日の翌日の深夜だった。深夜も深夜、さらに日付がもう1つ変わっていま真夜中の2時なんですけど。


 きょうは午後からバイト先のデザイン事務所に顔を出したら納期前とかで、夜の10時半まで手伝わされた。帰宅したのは11時過ぎ。だからご飯も食べずにシャワーだけ浴びてとりあえず寝た。んで、いま着信音に起こされたところ。

 いくらあたしが昼間捕まらないからってこの時間は非常識じゃないでしようか? あたし明日は6時起き。


「鞠乃が連れて行きたいっていってる人、司さんっていった? その人ゲイじゃないでしょうね?」

「違うよ。ってか夜中にイキナリなんで?」

「だってまず、その人お京さんのお友だちなんでしょ? それに鞠乃と2年間ずっと友だちでさ、鞠乃に手も出さず、しかもずっと周囲にほかのオンナの影もないわけでしょ? そんで今回旅行に誘ったら、即座に男友だちを連れてきたいって返事だったんでしょ? もしその鞠乃の友だちがゲイで、一緒に連れてきたいっていうその天文マニアの男がその鞠乃のお友だちにとって──なんだっけ? 射止めるの人だったとしたら、女子2人増やしたら逆に数が合わなくなるじゃん。あたしらがあぶれるから」


 くだらないことで夜中に電話かけてこないでよ。それと、あたしが使った言葉は「意中の人」だよ。「射止めるの人」ってどういう日本語だよ。まあ大体意味は合ってる気がするけど。

 いろいろツッコみたかったけど、亜季の口調は真剣そのものだ。


 お京さんというのはあたしたちの共通の友人で、あたしたちよりひと回り以上年上で、ゲイでクロスドレッサーな男の人だ。美容師さんで、普段からジェンダーレスなファッションだったりフェミニンなファッションだったりするのだけど、本格的に女装をするとちょっと迫力のある美人さんに変わる。


 ちなみに亜季のお兄さんもゲイで、亜季の両親とお兄さんが不毛なバトルを繰り広げていたときに亜季はよくお京さんに相談に乗ってもらっていた。相談というのか、家族がギクシャクしてると精神的にまいるからね。話を聞いてもらったりスイーツバイキングに連れて行ってもらったり、メンタル面ですごいお世話になったんだって。それが2年ぐらい前の話。

 司とあたしが出会ったのと同じころだね。

 お京さんに会いにきていた亜季に、そのころ一度だけ遭遇したことがある。


 そして、今年からあたしの行くことになったN大芸術学部で、あたしと亜季はばったり再会した。以来地元が一緒だから、ほぼ毎朝一緒に電車通学してる。あたしがデザイン科で亜季は写真科。でも教養科目は共通だし、1年前期は大体フル単で1限目からあるからね。

 帰りはあたしはデザイン事務所のバイトがあって、亜季は別のバイトをしたり教習所に通ったりW大のインカレサークルに顔を出したりしてたからほぼ別々だけど。


 亜季のお兄さんがゲイ、という話題をもう少し。お兄さんは2年と少し前に家を出て、同性の恋人と一緒に暮らし始めたんだって。その前にもその恋人と別れろだの別れないだの、両親とずいぶんモメていたらしい。両親はお兄さんが出て行ったあとも、その人と別れて帰ってこないなら大学の学費を止めるとか退学させるとか脅して強硬な手段に出ようとしたけれども、お兄さんは自ら大学を中退して高卒枠の公務員試験を受けてどっかの市役所だか区役所だかにさっさと就職してしまった。もう両親のもとに戻る気はないらしい。

 亜季の両親はいまはあきらめがついたのかどうか、お兄さんを無理やり家に連れ戻そうとかの強引な試みはしなくなっていて、とりあえずの平穏が保たれている。


 ただし亜季には時折プレッシャーをかけて来るんだって。お願いだから普通に恋愛して普通に結婚して、ゆくゆくは孫の顔を見せてほしいって。

 あたしは亜季のパパとママに会ったことないけど、会ったら断言してあげていいよ。亜季なら心配ない。普通以上だよ。めっちゃガツガツ恋愛したがってるよ。

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