4 最強の防壁
亜季との話は二転三転したけど、最後には司を誘っていいことになった。その楢沢さんっていう司の先輩も誘っていいって。
亜季はやっぱりW大インカレサークルの2人を誘うつもりらしい。それに司と楢沢先輩を足すと男が4人になるから男女の比率が合わなくなる。だから亜季は高校のときの友だちも2人誘おうかなって言ってた。合コンじゃないんだから男女の数をわざわざ合わせなくてもよさそうなもんなんだけど。
こうなったらほんとに司を誘うって決めておいてよかったよ。男子なんてわずらわしい。司はあたしにとっては最強の弾除け防壁バリケード。まあ司も男なんだけどね。でも話が合うし、司以上に話の合う人ってこれから現れない気がする。
それに司はあたしがずっと片思いしていた人の弟だからね。
司の双子のお姉さんの梓は、いまは東京にいない。静岡の浜松市の大学で医学生をやっているの。医学部医学科の2年目になる。去年の夏は東京に帰ってきてそのとき受験生だったあたしの勉強を夏休み期間中ずっと見てくれたけど、今年は忙しすぎて帰れないらしい。夏休み明けに大きな試験があるため、大学の図書館にこもりきりでガリ勉してるんだって。
いや、あたしが会いに行けばいいんだけど。忙しいのに迷惑じゃないかと考えたり、2人きりで会って、ケリをつけたと思ってた片思いな気持ちがうっかり再燃したら不毛過ぎるとか思ったり。
司と一緒に梓を訪ねたことならあるよ。今年の2月、N大の合格発表があってあたしの進路が決まってすぐのころと、司が無事に司法試験を終えた5月の終わりと。
司は法律家志望の法学部の大学生でいま3年生。高2のときから受け続けた予備試験に、去年4度目の正直で受かった。続けて今年春に受けた本試験に合格していたら、秋には晴れて法律家の資格を手に入れることになる。でももし合格していても、大学にはそのまま卒業まで在籍するんだって。希望のゼミに入れたから、来年は卒論に集中するつもりみたい。
梓の住んでいる街までは、冬に訪ねたときには新幹線を使って行ったけど、この間の5月の土日は気候もよいしお天気もよかったので、司のバイクに乗せてもらってタンデムで行った。新幹線で移動したときは近いと思った浜松は、バイクだと結構遠かった。楽しかったけどね。
梓に会うとあたしはいまでもやっぱり胸がドキドキするんだ。梓は見た目は司によく似てるんだけど、持ってる雰囲気が違う。優雅というか、わびさびというか、物静かで張り詰めた独特の空気感。
梓のちょっとしたしぐさとか、話し方とか、視線とか立ち振る舞いとか、そのすべてがあたしを惹きつける誘蛾灯みたいな感じ。なんだろう。これは大好きなアイドルに対する気持ちに近いのか。
対照的に、司に対してはあたしはリラックスして接することができる。司はあたしにとって何でも話せて相談できる相手だ。向こうもそう思っててくれてたら嬉しいんだけど。あたしは頼りないって思われてるかも。ちょっと自信ない。
友だち以上カレシ未満なんて言葉があるけど、あたしは司に対してカレシ未満なんて言い方はしたくない。だって司は、カレシなんてよくわからないものなんかと比べることができないぐらい大事な友人だから。
大事な友人をバリケード代わりに利用するあたしもあたしだけど。でも亜季のカレシつくれ攻撃って結構面倒くさいんだもの。いや、一緒にカレシつくろうよ攻撃なのか。あたしの写真に興味を持ったっていうW大生の存在も面倒くさい。