3 約束を取り付ける
「もしもし、司?」
「おう」
「夏休みなんだけど予定どう?」
「8月の13日?」
「あっ、ごめん。違ってる。12日の晩から13日未明にかけて。多分だけど? 亜季がペルセウス座流星群って言ってるの。その日がピークだって聞いた。どうかな? 忙しくて無理?」
「いーや、暇だしゼミも休みだし。それより天体観測だったら俺の大学の先輩1人誘ってもいい?」
「先輩? あたしも知ってる人?」
「ワンゲル部の楢沢さんって人。寝袋先輩の1個下で、いま4年生。鞠乃には会わせたことはない。ただ、流星群っつったら何をおいてもすっ飛んでくると思うんだ。高原で星を見る予定なんだよな? 天体に詳しいから役に立つと思うし、確か高性能の望遠鏡持ってたと思う」
寝袋先輩というのは名前じゃなくてあたしたちが勝手にそう呼んでるだけなんだけど、以前司が住んでたアパートの隣人で、寝袋を借りに行ったことがある人。もう卒業してるけどね。司はワンゲル部員ではないのだけれど、その人がワンゲル部だったものだからそのつながりでワンゲル部の知り合いが多いの。
「その楢沢さんって男?」
「うん、男。俺らの大学文系だけなのに2対1で男が多いの」
「えーとね、亜季が意中の男を誘うって言ってたから、あんまり天文に関してハイスペックな人を連れてくと混乱のもとだと思う。多分亜季がその男に天体のこと説明してやっていい感じになろうって目論んでるんじゃないかと思うから」
「亜季ちゃんって天文に詳しいの?」
「高校では天文部だったらしいよ。いまも天体写真撮り続けてるみたいだし、そこそこ詳しいと思う。でも先輩のことも一応打診してみるね。司は来られるで確定? できたら運転も頼みたいんだけど」
「レンタカー?」
「そうなると思う。亜季が免許取り立てだから高速と夜道の運転させたくない。あたしは免許持ってないし、亜季が連れて来るつもりの人が免許持ってるかわかんないし」
「大学進学したらすぐ免許取るって以前鞠乃言ってなかったっけか?」
多分一度口にしただけなのに、よく覚えてるなあ。
「資金貯めるためにバイト始めたらそれが忙しすぎて教習所に通うヒマがないの。夏休みもお盆期間中と土日以外はずっとバイトだよ」
「夏休み期間中ずっと? 朝から晩まで?」
「場合によっては朝から深夜まで」
「デザイン事務所だっけ? よく見つけたよな、そんなバイト」
「うん、あたしもそう思う。でも明後日はまだ試験期間中だからお休み取ってたからね、司の予定につきあえるよ」
地裁の傍聴に行くから一緒に傍聴してって言われてる。マニアックな趣味だと思うけど、こっちもいきなり天体観測に誘うわけだし、フィフティフィフティ。
「明後日はテストなし?」
「うん。あす午前中2コ受けて終わり。提出物を仕上げる用に空けてたんだけど、レポートも制作物の提出ももう済んだ。あすの午後はバイトに行くけど、あさってはそのまま空けとくから」
「サンキュ。んじゃ、あさっては朝8時に迎えに行く」
「予報だとあすとあさっては雨だよ。あたしは電車にする」
「わかった。じゃ、俺もそうするよ。駅で待ち合わせで」
司の送迎はバイクだからね、あたしは雨の日はパスだ。それを伝えたら、電車で行こうって話になった。あたしはなんなら晴れの日も電車でいいんだけど。遠回りだけど電車の中でいろんな話ができるから。
でも、それは言わないでおく。司はバイクで走るのが好きだから。その好きに、水を差したくはない。
そのあと他愛のない話を少ししたけど、雑談してたらきりがなくなりそうだったので、亜季に電話をかけるために一旦切る。