1 男友だち
夏休みには星を見に行こうっていう亜季からの提案を聞いてすぐに、司に連絡を取って同行してもらえないかを打診してしまったのは、少し嫌な予感がしたせいだった。
嫌な予感という言い方は曖昧過ぎるね。もう少し詳しく説明すると、理由は2つある。
1つには免許取りたての亜季が自分で運転するって言い出すのを防ぎたかったから。天体観測ならおそらく夜道でしかも山道だ。脱輪して斜面を転げ落ちる未来しか見えない。
2つ目は、亜季がダブルデートなんて口走ったせい。この間から亜季が紹介したがっている相手に会いたくなかったっていうかお世話焼かれたくなかったというか、カレシとして当てがわれるのを避けたかったから。
しかも亜季の計画だと泊りがけを考えてると思う。多分というか、間違いなく。行先は山梨とか言ってた気がする。
司は別にあたしのカレシじゃない。でも気が合う男友だちだし、あたしの知る限りではカノジョ持ちではないから、誘ったら多分来てくれるはず。多分。バイトとか帰省とかの予定がなければ。
司との付き合いは2年弱。あたしたちが出会ったのは 一昨年の9月の終わりで、当時あたしが高2で司は大学1年だった。あと2か月であたしたちは出会ってからまる2年になる。
あたしはそのころ司の双子のお姉さんに片思いの恋をしてた。司はそんなあたしの気持ちを知っていて、ずっとそばにいてくれた。
司からは一度告られたことがある。
「鞠乃ちゃん、俺とつきあってくれない? アズちゃんの身代わりでいいからさ」
そんな言い方だった。
「好きな人がいるのにほかの人とつきあうとか、あたしはそんなに器用じゃないから無理」
って言って断ったら、じゃあ友だちになってって屈託のない顔で司は言って、それからずっとあたしたちは友だちだ。
アズちゃんというのは司の双子のお姉さんのことで、本当の名前を梓という。
当時の司は梓に見た目がそっくりだったから、身代わりっていうのは逆に無理過ぎた。司を見ているとどうしてもあたしは梓を思い出して比べてしまうから。
いまはそうでもないけどね。出会ったころと比べて司は背が伸びて、見た目もそのころほど中性的な感じではなくなった。それでも男性的ってほどではなくてどちらかというと綺麗な系統の顔立ちだけど。