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3.もう一度、会いたい。



名目上はエドワルドとの婚約破棄について、国王に報告という建前で面談を申請したのだが、レオルドはリーセルに会うのを許可しなかった。息子に興味が無ければ、その婚約者にも興味はないのであろう。


正攻法では無理だと察したリーセルは、すぐさま作戦を変更した。国王直属のメイド服に着替え、王宮を歩き、情報を収集する。レオルドは執務室に籠り、メイドや側近すら受け付けず、一人で執務に当たっている、『孤高の王』と呼ばれていた。


氷のように冷たい視線で見る者の心すら凍り付かせると言う。国王の笑った顔など誰一人見たことが無く、亡き王妃や、実の息子にも微笑みかけることは無かったそうだ。



──昔は、屈託なく笑い、素直な王子だったのに…、どうして……。


前世の記憶の中では、小さなレオルドがミランに微笑みかけ、照れたように気遣いの言葉をくれた。何事も真面目に取り組み、熱心に王になる勉強をしていた。健気な小さな王子を思い出すとリーセルは胸が締め付けられた。



ミランが死んで二十五年の月日が流れた。当時十二であったレオルドは三十七になり、一国の王となった。もう一度、会いたい。そう願うのは『ミラン』だけだろうか。


レオルドは公務を補佐官に任せ、公に出てくることは無い。終戦以来、人前に姿を現すことも極めて少なくなった。だから、リーセルは成長したレオルドを見たことは一度も無いのだ。


今回怒りに身を任せ、メイドに紛れてレオルドの住む宮まで来てしまったが、やはり止めた方がいいだろうかと怖気づく。情報だけ取り、やはり出直そう。そう思った時だった──



ガタンとレオルドの執務室から大きな音が聞こえた。


まるで人が倒れたような音に、リーセルの中の何かが弾ける。



「っ……レオルド様っ!!!」



執務室の扉を開けると、床の上に人が倒れていた。金色の輝く髪に、精悍な顔立ち──幼い頃の面影が少し残っている彼は、恐らくミランが仕えた主である。


顔色が悪く、意識を失っている様子に、リーセルは焦って駆け寄った。



「レオルド様っ!!しっかりなさってください!!!」



我を忘れて、レオルドを抱き起こし、声をかける。机の上に山積みにされた仕事の山に、携帯食の食べかけ。目の下の隈。どうみても過労で倒れたのだ。



「あれ程、しっかり食事は三食バランスよく摂って、睡眠だけはしっかり取るように言い聞かせたのに!!」



リーセルの口からはつい『ミラン』としての言葉が出てしまった。もう十分大人になったレオルドを子どもの様にしかりつけた。誰かが見れば不敬だと顔を真っ青にさせただろう。


「レオルド様、身体が健康でないと良き王にはなれませんよ!ああ、とにかく寝台で休みましょう。ちょっと手荒になりますがご容赦くださいね」


体格差がありすぎて抱きかかえるのは無理だと判断し、リーセルはレオルドの脇に手を差し込みずるずると引きずりながら部屋にある簡易寝台へと向かう。少し荒っぽくなったがどうにか寝台へ寝かせ、ふうっと息を吐いた。



「このように…無理をし過ぎては身体を壊してしまいます」



リーセルの中の『ミラン』が泣きそうな位訴えかける。レオルドはきっと孤独な王だ。誰にも頼らず、一人でずっと戦ってきたのだろう。執務室で倒れても誰も気づかず、国王の執務室の周りに使用人すら居ないのだ。


ポロポロと涙が零れ落ちる。もしミランが生きていたのなら、絶対にレオルドを独りにはさせないのに。



「ミラン……──」



うわ言の様に呟くレオルドに、リーセルの肩が跳ねる。まさか、こんなに年月が経過しているのに名前を呼ばれるとは思わなかった。だからつい嬉しくて応えてしまう。



「レオルド様。ミランですよ…生まれ変わって、また会いに来ました」


命に替えても護りたかった。ミランの主君。心が震えるようにレオルドの頬に触れる。どうか安らかな夢が見れますようにと大きく成長したレオルドの頭を撫でようとした瞬間、その手をぐいっと掴まれた。



「っ!!!レオルド様っ!!?」


「……本当なのか……!?ミラン、なのか……!?」





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