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1.只の、公爵令嬢ですよ?




「レオルド様っ!!お逃げ下さいっ!!!」


「ならぬっ……!私の浅はかな行動の所為で、ミランお前の命を捨てさせるわけにはっ──」


「レオルド様。ミランは王家の『影』にございます。主君を御護りするのが私の使命です。私の強さは知っているでしょう?犬死になどしません。さあ、レオルド様、振り返らずに、行ってください!」



敵兵の足音がもうそこまで迫っていた。ミランは愛剣を鞘から抜き、レオルドに背を向ける。諜報と暗殺に長けた『影』であるミランはレオルドにとっては使い捨ての駒では無かった。


幼い頃から両親と離され育てられたレオルドにとって、『影』として始終共に過ごしたミランは、母であり、姉であり、恋焦がれる初恋の相手でもあった。



「嫌だ、ミラン!一緒に生きてくれっ!!私と共に──」


「レオルド様。貴方はこの国の希望です。どうぞ、良き王になってくださいね」



振り返ったミランはいつもと同じように優しく微笑んだ。その瞬間、他の影がレオルドを抱え上げその場から無理やり離れる。



「ミランっ!!!!」



悲痛なまでのレオルドの叫びを背に、ミランは敵兵に突っ込んでいった。百は越える兵士達を一人で相手にするのは、いくら手練れのミランでも無謀に近い。それでも、レオルドを逃がすまでの時間稼ぎにはなれるはずだ。


戦禍の中に巻き込まれた幼き王子。どうか生き延びて、その曇りない無垢な瞳を濁すことなく…良き王になって欲しい。自分はその時に傍に居られなくとも──



敵兵を薙ぎ払い、攻撃は避け、出来る限りの足止めをする。一人の女に行く手を阻まれた兵士達は最初こそ焦りの色を浮かべたが、体力は無尽ではない。動きが鈍くなるミランに、兵士の攻撃が当たり始める。目が霞み始め、胸に灼けるような衝撃を感じた。


──レオルド様…どうか、ご無事で──…


ミランの意識は其処で途切れた。




◆◆◆




「リーセル・ジェウス公爵令嬢!お前との婚約はたった今破棄する!!」



ブライトン王国の王太子であるエドワルドが卒業パーティーで言い放った言葉に、リーセルは頭を抱えた。壇上に居るエドワルドの隣では勝ち誇ったような笑みを浮かべ、男爵令嬢であるニコスがリーセルを見下ろしていた。



「殿下、理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」


「お前は何でも優秀過ぎるニコスに嫉妬し、社交界での彼女の為にならない噂を流し追放し、学園では下位貴族だからと虐めた。全て証拠は揃っている。ニコスへの暴行や拉致監禁未遂もだっ!!そのような悪女、私の婚約者には相応しくない!!」



意気揚々とリーセルの罪を並び立てるエドワルドに、リーセルは深いため息を吐いた。


──全く、レオルド様とは似ても似つかない……。いったいどのような教育を受けて来たのか。『影』は何故諫めないのか。



リーセルはエドワルドの前に分厚い紙の束を放り投げた。それにはたった今証拠として挙げられた証言を覆す内容がびっちりと記してあった。


「ディール子爵令嬢は、ニコス・ニーシャ男爵令嬢より金銭を受け取り私が虐めをしていたとの証言をしました。これは魔水晶に映像と音声は記録されています。他の証言も全て…裏どりできていますよ」


「なっ!!!!」


「裏組織にも通じていらっしゃるようですね。ニコス・ニーシャ男爵令嬢は」



ゆっくりと微笑むリーセルに、ニコスは顔を真っ青にして震え出す。悪役に仕立て上げたかったようだが、裏社会においてはリーセルの右に出る者は居ないだろう。諜報に関しても──



「ジェウス公爵家を陥れるような証言をした方にはそれ相応の対応はさせて頂きます。それと、殿下、この婚約は王家と公爵家との政略的なものです。それを一方的に破棄など、王位継承権を放棄されるのですね。それは残念です」


淡々と言い切るリーセルに、エドワルドも顔色が徐々に悪くなっている。詰めが甘いのだ。男爵令嬢如きの謀にリーセルが対処出来ないなど有り得ない。


今までは王家の為にと色々と目をつぶり、強いて言えば『影』として秘密裏に動いて来た。しかし、だからこそ判断した。エドワルドは王に相応しくないと──



「お…お前…、何で…ただの…公爵令嬢じゃ……」


「只の、公爵令嬢ですよ?」



──前世は王家の『影』でしたがね──……




リーセルは冷たくエドワルドを見つめ返すのであった──






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