表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

05 ステータスと魔法の授業

 アイリスのもとに厄介になり始めてから一週間が過ぎ、その間に様々な変化があった。

 

 まずはゴブリン赤ちゃんの事から。

 なんと、生後十日にもかかわらずハイハイが出来るようになった。

 首も座っているし、成長速度が僕の知ってる赤子の比じゃない。

 数日前から、アイリスさんの乳を直接吸っているからか? 母乳と一緒に魔力も吸っていたりするのだろうか。

 

 あぁ、いいなぁ、僕もアイリスさんに吸い付きたい!

 

 次に僕だけど、今まで失念していたとても大切なことを思い出してから、僕の環境は激変していた。

 それは『ステータス』だ。

 僕のスキルやらアビリティ、おおよそゲームで頻繁に見かける類のものが視覚化できるようになった。

 

 ただ、この世界には、レベルという概念はないらしい。

 代わりに、大まかに分けて三つの要素がある。

 スキル、アビリティ、スペル。これらが全てツリー化されている。

 鍛えれば鍛えるだけ育ち、分岐していくのは、リアル寄りと言えばそうかもしれない。

 で、僕のステータスはこんな具合だ。

 

 【名前・タカキ=シノ】

 【年齢・13歳11カ月】 微妙……に若返っている。

 【人種・人族=日本人】 人族って概念があるなら、亜人とかもいそうだな。

 【職業・ショタメイド】まぁアイリス家のお手伝いさん、だけどさ。

 【特殊固有スキル・進化エヴォルブ】僕だけの特別な能力って事だね。

 

 因みに、HPやMPの表記はない。

 スキル等の表記は、『進化魔法Ⅰ』 みたいな感じ。

 『筋力Ⅱ』『生命力Ⅲ』『魔力Ⅲ』こんな具合で続いていく。

 僕の持ってるスキルは、使えそうなものから、そうでない物まで沢山あった。

 一番高レベルのスキルは、『変態Ⅴ』『シスコン属性Ⅴ』の二つがある。

 

 解りやすく言おう。

 

 【スキル】その人を構成する、あらゆる要素を細分化して項目にしたもの。

 

 【アビリティ】とは、ゲームで例えると戦闘コマンドみたいなもの。

        

 【スペル】とはそのまま呪文、魔法の分野だね。

 

 僕がいま使えるのは〝進化魔法〟だけだ。

 また暴発すると困るから、詠唱しなければ発動しないように加筆修正してもらった。

 あの不愛想な天の声にね。

 

 《なんて?》

 

 この進化魔法、実は生き物以外にも使えると知って、僕は仰天した。

 試しにアイリス家のろ過装置を進化させてみたら、現代の浄水器みたいに清潔で美味しい水を作れるようになった。

 他にも色々と、近所の人にバレないように家の中だけを進化魔法で改良し、より暮らしやすい家にしていった。

 改築して、大きい風呂を作ったのが一番感動したな。

 

 進化魔法のスペル、『進化エヴォルブ』から派生したスペルがある。

 『状態記憶コンプレッション』『仮想復元ディーカンプレシャン』『仮想付与オーバークロック』の3つで、計4つの魔法を僕は使える。

 記憶と復元を使えば、ある程度の〝進化〟を操作できる。

 これは大きな発見だった。進化させ過ぎて壊れてしまうものが多いからね。

 『状態記憶コンプレッション』と『仮想付与オーバークロック』に関しては、これ単体のスペルとしても使えるけど、基本的に〝進化〟する際に連動する代物だった。

 『仮想付与オーバークロック』は面白いが、かなり運要素が強い。

 言っちゃえばガチャなんよ、付与効果ガチャ!

 

 彼女は僕の魔法をみて、天の恵みじゃー! と大はしゃぎで家の中を駆け回っていた。

 僕の魔法を伝授することは特殊固有スキル故に不可能なので、アイリスさんには頼まれたものを進化させてあげている。

 その代わりに、今日はアイリスが使える魔法と、魔法についての知識を教えてもらうことになっていた。

 

 アイリスは教会で働いている、修道女って訳じゃないけど。

 教会内の雑務が主な仕事だが、最近は聖水の製造に注力している。

僕たちが住んでいる町ベルストックは、神聖な森に囲まれた非常に清らかな環境らしく、更には森の加護も受けているらしい。

 ベルストックの環境は聖水作りに適している。

 故に、聖水製造は町の経済力に深く関わっているそうだ。

 

 △

 

 昼頃、アイリスが帰ってきた。

 

「ただいまぁ。ごめんね、仕事遅くなっちゃって」

「おかえりなさい。お昼ご飯は作ってありますよ」


 昼帰りで遅くなったと言われる事に、ようやく慣れてきていた。

 

「じゃあ、魔法を教えるのは食事を頂いてからにしましょう」


 食事が終わり、早速アイリスの授業が始まる。

 

「まずはシノに、杖をあげます」

「待ってました!」

「じゃーん! 新品の杖でーす!」

「ありっ……んんー?」


 これ、ただの木の枝じゃね? 持ち手にボロ布が巻いてあって杖に見えないこともない、けど。

 

「枝ですか? しかも先っぽが二股に分かれてて、なんだか不格好です」

「のんのん! ただの木の枝じゃありません。〝アイリスが拾ってきた木の枝〟です」

「履いたパンツに付加価値付けてネットで販売する人みたいですね」

「真面目な話、それが一般的な杖なんですよ。ベルストックの木々は祝福を受けているので、そのまま杖にするんです」

「なるほど。ケチつけてごめんなさい」

「まずはその杖を、自分の物にしましょう。シノの〝特別な魔法〟でね」

「あ、そうか!」


 杖を握りしめて、進化後の杖を想像する。

 

「やります。森の妖精よ、七色の歌声を奏で賜え。〝進化エヴォルブ〟」


進化エヴォルブ 仮想付与オーバークロック


 蒼白い光を放ちながら、枝の杖はガチガチと音を立てて形を変える。

 丁寧にやすりを掛けたかのような滑らかな材質に変化し、二股に分かれた杖の先は、片方が真っ白になっている。

 

 《"二股の杖・妄念もうねんのツィネル〟状態記憶しました。付与効果『魔力圧縮効率Ⅳ』『二重変換Ⅲ』『火遁Ⅱ』『風遁Ⅳ』》

 

 追加効果が色々付いてしまった。

 と言うか、火遁風遁ってなんだ、ニンジャか?

 

「よし、シノが杖を手に入れたところで、早速教えるわね。まずは魔法とはなんぞやってところからね」

「はい、よろしくお願いします」


 アイリス先生の授業内容は、要約するとこうだ。

 この世界の人は当たり前に、誰でも魔力を持っている。

 魔法は誰でも使えて当然のもので、重要なのは〝熟練度〟であること。

 魔力を変換する為に必要なアイテムが杖である。

 

 詠唱は、実は要らないらしい。

 詠唱をする意味は〝私は今から呪文を唱えます〟という周囲への注意喚起が目的である。口にする文言はお祈りとか、おまじないの類で、それっぽい事を言っておけばオッケー! らしい。公共の場での呪文使用は、詠唱の義務が生じる他、基本的に禁止としている地域が多い。

 歩きたばこ禁止みたいな感じ。

 同じ呪文でも地域や使う人によって詠唱の文言と〝呪文名〟が全然違う、等々。

 詠唱は15文字以上とか、ローカルルールも結構あるみたい。ややこしいね!


「説明はこのぐらいだね。何か質問はある?」

「詠唱が不要ってのは判るんですが、呪文名みたいなのも、要らないんですか? 花火はなびとか」

「シノがその呪文を使い慣れればね。感覚で魔力の変換後を想像できたら、だいたい不要になるよ」


 アイリスは自分の杖を軽く振って、杖の先に『花火はなび』を出した。

 

「ね? 簡単でしょ。じゃ、まずは花火からやってみよう。詠唱ありでね」

「やってみます。森の妖精よ、七色の言葉を我に贈り賜え〝花火はなび〟」


 どしゅーん! ぱーん! ばぢばぢぢぢぢぢぢ!

 

 打ち上げ花火ぐらいのデカイ火球がアイリスの耳元を掠め、玄関のドアをぶち抜いていった。

 

 場所を改め、町の外にある広い平原で授業を再開することにした。

 一時間ほど練習して、ようやくアイリスと同じ大きさの花火を出せるようになった。

 

「普通は逆なんだよねぇ。火力を上げるのに苦労する人が普通で、火力を下げるのに苦労する人は、聞いたことないんだよねぇ」

「ごめんなさい。この杖、進化させたら色々と追加効果が付いちゃって、滅茶苦茶扱いづらいんです」

「あぁ、いいのいいの。面白かったし。まぁそういう暴れ馬な杖も、力の調整を覚えるには丁度いいかもね」

「確かに、それはそうですね。じゃあ、授業はこの辺で終わりですか?」


 アイリスはくすりと笑い、

「今日の本番はここからだよ。もしこの呪文を使えたら、ご褒美に一つ、なんでも言う事聞いてあげる」

 と言った。

 

 〝なんでも言う事聞く〟やつキター!!

 

「なんでもって、なんでもですか?」


 定型文過ぎる返答に、なんでもよ。と定型文が返ってくる。

 なんでも、なんでも、なんでも。

 我、天啓を得たり。

 

「行くわよ? 森の妖精よ、我をかの地へ連れ去り賜え『来来廻風らいらいかいふう』」


 随分と気持ちの籠ってる詠唱に聞き入っていると、突然アイリスの姿が消えた。

 

「あれ? アイリスさん?」

「こっちこっち!」


 アイリスは、スーパーなんとか人みたいに空を飛んでいた。

 なるほど。あんな事が出来るんじゃ、この世界は科学技術より魔法が発達するのも頷ける。

 

「威力は抑えて。周りに誰もいないから、試しに詠唱無しでやってみよう。よし、『来来廻風らいらいかいふう』」

 垂直に真っ直ぐ飛び上がった後は、風に乗るようにゆっくりと飛翔していった。

 

 すごいぞこれ、何処までも飛んでいける気がする。

 高度300mくらいまで上昇して、周囲の景色を一望する。

 

 死ぬ思いで散々彷徨った針葉樹の森や、僕が転生した洞窟がある山地、川の先には海が広がっていた。

 

「こんなに色彩豊かな世界だったんだなぁ」


 アイリスは僕のところまですーっと飛んできた。

 流石は先生、鳥みたいに自然に飛んでいる。

 僕の周りをぐるぐる回った後、背後から抱き着いてきた。

 大きい胸が惜しみなく押し付けられ、赤面しそうになる。

 

「どう? これが貴方が生きていく世界よ」

「最っ高に気持ち良いです!」


「え?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ