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27 ゴブリン全校集会

 コサギが受注したクエストは計6つ。

 その全てが〝ゴブリン退治〟で、当然ながら『ブロンズ』のクエストである。

 

 どうしてこうなった。

 

 『コバルト』のクエストを期待していたアリーヤはこれ以上ないほど肩を落とし、とぼとぼコサギの後ろを歩く。現在、ブレイズフィールに向かって我ら『ホワイトスミス』は行進中である。

 と言っても、最初の目的地は前回と同様にサナス山だ。

 

 コサギのかき集めた依頼書の束に目を通して気付いた。以前追い出したゴブリンの巣が、再び増加しているらしい。増加の原因が前回の件と同じであれば、再び湿地帯に足を踏み入れる可能性がある。僕たちは一度痛い目を見ているから、ゴブリン退治とは言え油断することはないだろうけどね。

 

 サナス山に向かう道すがら、僕は得意の風魔法で遊んでいた。

 風魔法は雷も発生させられる、それなら雪や雨を生み出すことも出来るのでは?

 と、様々なイメージを作っていた。

 

「とりあえず試しに一発、せーのっ『来来雪らいらいせつ』」


 ツィネルを振って、誰もいない空間に自作の呪文を放つ。

 

 すると急激に気温が下がり、杖を向けている空間が丸く歪んでいく。

 次の瞬間、その球状の空間に綺麗な雪が舞い、ぶわっと弾けて飛んでいった。

 

「パパー! いまのなに⁉ スノードームみたいでめっちゃキレー! もっかいやって!」

「えぇ? なになに、見てなかった! 俺にも見せてくれ」

「いーよっ」


 もう一度、今度は少し上の方に『来来雪らいらいせつ』を放つ。僕たちの上空に泡雪が舞い、まるで雪国にいるかのような感覚を、ひと時味わった。雪が珍しいアリーヤと、単純に雪が好きなコサギと僕は、子供の様にはしゃいだ。

 3人で無邪気に笑い合うのは、これが初めてかもしれない。

 

 ◇◇◇

 

 サナス山に到着し、洞窟を見て回る。

 増えた依頼書の示す通り、ゴブリンの数が数段増えていた。

 

 コサギが洞窟を巡回し、ゴブリン達に指示を出して個体を集めて回っている。

 僕とアリーヤは集まったゴブリンを整列させ、全員に体育座りをさせていた。

 一面に広がる草原の上で……さながら、ゴブリンの全校集会である。

 

「ゴブリンが俺たちの言う事を聞くってのがもう、訳わかんねぇやっ」

「んだなっ!」

 

 僕とアリーヤは、細かい事を気にしなくなった。

 

 体育座りして大人しく待機しているゴブリンの総数を数えていく。

 今いるだけでざっと150匹は超えていて、コサギが呼び寄せ続けている分を含めると、倍くらいになるのか?

 これは、依頼書6枚で収まる規模ではない。

 

 一通り集め終わり、コサギが帰ってきた。

 ゴブリンの総数しめて336匹。

 ちょっとした軍隊が作れそうな集団を、コサギが一纏めにしている。

 

 コサギが朝礼台ブリッジするゴブリンに登り、体育座りで整列しているゴブリンの前で話を始める。

 

 こうして、前代未聞のゴブリン全校集会が始まった。

 

「えー、最近ねぇ。学校の近くで不審者が出ているということでねぇ。保護者の方々と色々とね、協議しているんですわ。大方おおかた近所のニートさんがね、やる事もなくフラフラ出歩いてるだけだと思うんだけどねぇ、まぁ親御さ――」

「コサギ、そういうのイランから、早く話を進めろ」

「ゴブリンの諸君。今から君たちに、ぶっ殺し合いをしてもらいます」


 コサギの言葉に反応し、即座に取っ組み合いを始めるゴブリンたち。

 

 いやいや、やめろやめろ!!

 

 いや……〝ゴブリン討伐〟って意味では正解だが……さっきまで素直に言う事を聞いてたゴブリンたちが殺し合うのは、後味が悪すぎる。

 

「と、言うのは嘘でぇーす! えへへ、騙されてやんのー!」

「お前マジでいい加減にしろや!」


『なんだ嘘か、びっくりしたぜ』って顔してゴブリン達は再び整列し、体育座りに戻る。僕はもう、ゴブリンと言うモンスターが何なのか、判らなくなってきていた。

 

「先生方、お静かに願います」


 アリーヤが咳払いをし、背筋をピンと伸ばしてピシャリと言う。

 お前はお前で、ちゃっかり先生役になりきってんじゃねぇよ!

 

「それで、君たちはどこから来たんだい?」


 ようやくコサギが本題に入る。ゴブリンたちは、ごぎゃごぎゃ! と口々に何かを話している。僕とアリーヤには何言ってるか分からんが、コサギはゴブリン故に言葉が通じる。ので、コサギとゴブリンたちの対話を暫し見守っていた。5分ほど掛かったか、話が終わったらしく、コサギは朝礼台ブリッジするゴブリンから降りてきた。

 何食わぬ顔で近寄ってくるコサギが言う。


「なんかぁ、この前倒したカニ? いるじゃん? アレと〝探求者シーカー〟が湿地帯にいっぱい居るんだってぇ。ヤバいよねっ! ちょーウケる!」

「ウケねぇよ。それで、湿地帯のゴブリンが全部逃げてきた、って感じか?」

「そーゆーこと! これでも半分以上は殺されちゃったんだって。で〝探究者シーカー〟みたいに、ゴブリンまでゾンビになっちゃって、沼地がアンデットの巣窟になってるって現状らしいよーん」

「なるほど。サナス山のゴブリンより、湿地帯のが問題だな。でもなんだか妙だな……湿地帯はブレイズフィールの玄関口って前に教えたろ? つまり、毎日たくさんの冒険者が通ってるはずなんだよ。なのにそこがアンデットの群れで溢れてる。誰もモンスターを倒さず通ってるって事になるのか?」


 アリーヤの言う事も最もだが、僕には一つ心当たりがあった。

 

「多分、他の冒険者たちは皆、とん――」


 僕が説明しようとすると、どこからか悲鳴が聞こえた。

 声の主を探し辺りを見回すと、上空に3人ほど浮かんでいるのが見える。

 そう、風の呪文を使った〝飛行魔法〟を使っているのだ。

 

 ◇◇◇

 

「君たち! そこから逃げるんだっ! 私が助けるぞ!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、そちらを見遣る。

 上空から一人、ゴブリンの群れに突っ込んできた。

 よく見るとそいつは以前、模擬戦をしたウォルター・ラックウェルという男、黄色い鱗の竜族冒険者だ。

 前回と違って、携えているのは磨き抜かれた輝く真剣だった。 

 青空から急降下して突撃しながら、剣に魔力を流し閃光を纏った刀身を振るおうとしている。

 

「ウォルター! 待ってくれ! 事情があるんだ!」

「なっ、シノ君か⁉ どうして君が……いやそもそも、このゴブリンの群れは?」


 寸前で動きを止めたウォルターとその一行が地上に降りて、僕たちに近づいてくる。

 ウォルターの後ろを歩く男女の二人は、外見的特徴から見るに、どちらも竜族だった。

 

 女は蒼い鱗の竜族だった。

 肩まで伸びた癖のある蒼い髪が、さらさらと風に靡いていた。

 凛々しく気品のある顔だちに、青白い肌と翠色の瞳が美しさを際立たせている。

 右目の泣きぼくろがセクシーだ。よく見ると、長い耳の淵は蒼い鱗で覆われていて、人外であることを強調している。

 しっぽは細長く、蒼い肌と鱗が日光を反射する。

 耳の上から生えている純白の角は、羽筆のように芸術的な造形をしていた。

 胸の大きさは……コサギより一回り大きいな。

 Eカップか、いや……F寄りか。

 年の頃は19ほどだろう、産毛の立つきめ細かい若い肌が可愛らしい。

 露出の激しい白い騎士服を身に纏い、あらわになっている腹筋は鍛えられて割れている。甲冑は肩と胸だけを覆い、黒くてシックなマントを羽織っている。

 彼女の右肩から剣の柄が見える、ロングソードを背負っているようだ。

 まるで女騎士のような風格を放ち、それでいて大人しく奥ゆかしい性格が佇まいから伺える。

 こいつはかなり、僕好みの女だ。

 

 隣の見知らぬ竜族男は、気の強そうな金髪マンだな。

 

「いったい、このゴブリンたちは……? なんで大人しく座っているんだ?」

「サギがやったんだよぉ! サギはゴブリンだからね、言う事聞いてくれるんだぁ」


 コサギがウォルターに説明するものの、面識のない二人が通ずるわけもない。

 

 僕とアリーヤで、手早く補足した。

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