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11 ゴブリン娘とゴブリン退治

 およそ高度150mまで上昇した。

 背負っているコサギが、前方左斜め下の方を指す。

 

「あのデカイのがいる場所か!」


 指の先には、見たこともない大きなゴブリンが、悠々と平原を闊歩していた。

 周囲にはゴブリンが群れている。

 あちらこちら、火の手が上がっていた。

 大きな黒煙が狼煙のように、上空まで立ちのぼっている。

 それから、飛んでいるのは何だ? あれもモンスターなのか?

 右旋回しながら接近すると、飛行しているモンスターがゴブリンであることに気付く。

 

「ゴブリンが飛んでるだと⁉ あんなん、見たことも聞いたこともない」

「あ――パパが――――」


 飛行中は風の音でコサギの声が聞こえ辛い。

 

 やたらと大きいゴブリンが歩いている。

 そして、そいつの針路上にはアイリスがいた。

 彼女は生きて、戦っている。

 

 アイリスの姿を確認して、胸を撫で下ろしたいところだが、悠長なことは考えている時間が無い。

 すぐに助けなければ、手遅れになってしまうかもしれない。

 巨大なゴブリンに接近しようとした途端、飛び回っているゴブリンが僕に飛び掛かり、しがみ付いてきた。

 

「ごぎゃ! ぎゃっぎゃっ!」


 ゴブリンは喚きながら、僕を殴る。

 

「くっそ、てめぇ! 離れろカス! ボケェ!」

「パパ! 先にフライ・ゴブリン斃さないと! ゴブリン・フォートレスは動きが遅いから、後回しにしよう!」


 ゴブリン・フォートレス? 語感的に、あのデカイやつの事か。

 掴みかかってきたゴブリンは、コサギが殴って引き剥がした。

 

「パパの魔法で、飛んでるやつ全部、撃ち落としてよ!」


 飛んでいるほうが先、というのは歯痒い気持ちだ。

 アイリスに迫っているゴブリン・フォートレスを、先に始末したい気持ちの方が強かった。

 だが、いずれにせよ全部倒してやる。

 

「任せろ、マッハでボロ雑巾にしてやんよ!」


 速度が遅いと飛んでるゴブリンに掴まれる。

 それなら魔力を抑えず、自然に杖に流して飛ぼう。

 

「コサギ! しっかり掴まってろよ!」


 コサギは右手でピースをしてから、両腕を僕の首に回し、しっかり固定した。

 

 ◇◇◇

 

 視界の端々に、フライ・ゴブリンが見える。

 どうやってやっつけるか。

 飛翔しながら火球を当てられない。

 空中戦なら風魔法が有効か。

 

 想像しろ、風魔法を操って戦う方法を。

 

 高度を落とし低空を飛ぶ、数匹付いてきた。

 後方に電撃を撃つ。

 2匹落ちた。

 回転しながら上昇、右足に魔力を貯める。

 急旋回、3匹振り切った。

 立ち昇る黒煙に突っ込む。

 煙を少し吸った。

 落ち着け、リラックスしろ、力を抜け。

 上昇、一瞬の停滞、大きく息を吸う。

 急降下、身体にGが掛かり、軋む。

 水平に戻し右旋回。

 2匹付いてくる、平気だ、ゴブリンは遅い。

 速度を上げる、集団が投石を仕掛けてきた。

 回転しながら上昇、『来来雷らいらいらい』。

 10匹以上が黒焦げになった。

 杖を逆手にもつ。

 汗が額を伝っていった。

 正面から2匹迫ってきた。

 加速、すれ違い、風切り音。

 減速。

 旋回。

 停止。

 反転して杖を振る、『来来雷嵐らいらいらいらん』。

 横向きに、帯電した竜巻を撃って杖をぐるんと振る。

 ゴブリンが千切れて落ちていく。

 後方を見る。

 左右、上下、まだ敵が多い。

 一匹突っ込んでくる。

 魔力を切り、自然落下。

 寸でかわす。

来来鎌風かまいたち


「逃げるな」


 フライ・ゴブリンが遠巻きになる。

 警戒され始めた。 

 

 《緊急スキル発現・『ゾーンⅣ』を加筆します。スキルは自動発動します》

 

 《ゾーンに突入します。以降、全魔力は遁術に自動変換オートメーション

 

 頭の中が、瞬く間にクリアになっていく。

 

 旋回、ゴブリンをかわす。

 飛翔しているゴブリンの軌道がわかる。

 投石が耳元を掠めるが、直撃はない。

 急上昇。

 高度を取って、急降下しながら杖を振る。

 

 《風遁 空爆擦花くうばくさっか


 あちこちで空気が渦を巻いていく。

 杖の先から発生させた帯電する竜巻を、ぐるぐると振り回した。

 ゴブリンを、続々と横薙ぎにしていく。

 竜巻が破裂する。

 大規模な空中爆発を起こした。

 

 そのまま、自由落下。

 急停止。

 続けて急上昇、速度を上げる。

 高度は十分足りた。


「次だ」


 6匹追いかけてきた。

 真下から突っ込んでくるゴブリンを避け、すれ違う。

 追撃してくるゴブリンの数が纏まり始めた。

 上昇しながら上空をぐるっと旋回する。

 回転。

 停止。

 狙いを定める。

 

 《風遁 魚雷颪ぎょらいおろし

 

 ゴブリンの群れに稲妻が落ち、畳み掛けるようにカマイタチが切り刻む。

 群れは、間もなく霧散むさんしていった。

 

 再び高度を上げる。

 戦況を見る。

 ゴブリンの飛行戦力は、殆ど失われていた。

 残るは地上のみ。

 ゴブリン・フォートレスの位置を確認する。

 

 見つけた時には、既にあの大きな腕が振り上げられる所だった。

 ぶん! とフォートレスは拳を振りぬく。

 人間が一人、砕けるように弾けて飛んでいった。

 

 緊張で体が熱い。

 否が応でも全身に走る焦燥感に、脳がシビれる。

 フォートレスがもう一度、拳を振り上げた。

 

「殺らせない」

 

《風遁 黒風こくふう

 

 黒い颶風ぐふうの一点集中。

 フォートレスの顔面に放つ。

 直撃し、ゴブリン・フォートレスは仰け反り、そのまま仰向けに倒れた。

 衝撃で地面が揺れ、重い音が響く。

 

《ゾーン終了タイムアウト

 

 無力化したフォートレスの周りに居たゴブリンたちは、慌てふためいた。

 フォートレスを無理矢理立ち上がらせようと試みる無謀なゴブリンもいる。

 一方で、大半は森の中へと敗走を決め込み、一目散に退場する。

 僕は大急ぎで着陸し、コサギを降ろして、アイリスのもとへ走った。

 

「アイリス!」「ママ!」


 アイリスは、すぐに見付けられた。

 彼女は見知らぬ女性を一人背負って、ゴブリン・フォートレスから逃げようとしていた。傍には、これまた見たことの無い、真っ白い女、いや猫耳? が生えている、獣人がいる。

 

「あなた達、どうしてここに」


 アイリスの顔には満身創痍と書いてある。

 ろくに動けもしないのに、それでも誰かを助けようとしていた。

 

「なんじゃなんじゃ、お主の友達か?」

「あたしの、彼と、娘」

「ほおー、こやつがお主の男かぁ。悪くはないが、年の割に随分と面の皮が厚そうじゃな」


 獣人の方は、存外元気そうだった。

 

「なあ、あんた、アイリスを安全なところまで――」


 アイリスを獣人に託そうと思ったところで、衝撃を感じた。

 ゴブリン・フォートレスが、上半身を起こし、同時に僕を殴り飛ばしたのだ。

 

「パパ――」「タカキ!」「ありゃりゃっ!」


 吹き飛ばされ、体中に痛みを感じる。

 油断した。

 だが、もろに食らった訳じゃない、骨は折れていないし、身体はちゃんと動く。

 

「僕は大丈夫だ! そこから離れろ! 町の中へ逃げろ!」


 僕は叫んだ。

 

 無我夢中でフォートレスを目指して走る。

 まさか、あの術を食らってまだ動けるなんて。

 さっき使ったのは一点集中の高火力の術だ。

 それに、あの風遁をどうやって使ったのか、僕は理解できてない。

 確実に斃すには、〝進化エヴォルブ〟を直接撃ちこむのが最善手だ。

 進化エヴォルブなら、あの巨体がいくら頑丈でも問答無用で崩すことが出来る。

 問題は、撃ち込む隙だ。

 あいつのパンチ、次に受けて生きていられる保証はない。

 しかし、フォートレスの射程内には僕の家族がいる。

 悩んでいる暇はない。

 走れ! 走れ!

 

 右腕を前へ突き出し、進化魔法を撃つ態勢に入る。

 

 立ち上がったフォートレスの目の前には、コサギが佇んでいる。

 

「コサギ! どけっ! 何をぼうっとしているんだ!」


 僕は速度を落とすことなく、勢いよく突っ込んでいく。

 立ち尽くすコサギと、視線が交わる。

 

「お兄ちゃん?」

「……え」


 耳を疑い、ハッとして、頭の中が真っ白になる。

 コサギは僕に、手を伸ばそうとしていた。

 

「ばかっ」「お兄ちゃんっ」


 僕たちは絡まって地面に転がっていく。

 コサギは僕に覆いかぶさり、目を丸くして、僕の顔をまじまじと見詰めている。

 ゴブリン・フォートレスの拳が、再び振り上げられた。

 醜悪なゴブリンの顔が、僕たちを見下ろしている。

 

 だめだ。

 避けようがない。

 また二人とも死ぬ。

 また、コサギを庇うか? 

 死ぬと判っていて。

 最後に乗った電車と、同じ結末が浮かぶ。

 

 ゴブリン・フォートレスは口から蒸気をあげ、鼻息を荒くし、そして拳を振りぬく。

 咄嗟に、僕はコサギを抱きしめていた。

 死ぬ。

 

「〝トマレ〟」

 

 コサギの声が野原に響く。

 そよぐ風の音が聞こえる。

 まるで、世界から音が消えてしまったかのように、平原は静寂に包まれていた。

 振り返ると、フォートレスの拳は、僕の鼻先で静止している。

 緑色の肌から浮き上がった血管が、ぴくぴくと、気持ち悪く痙攣しているのが見える。

 

「パパ! パパ! 早くやっつけて!」


「わかってる!」


 僕は飛び起きて、敵に向かう。

 時間が止まったように錯覚した。

 コサギの言葉が、頭の中で錯綜さくそうしている。

 

「うわあああぁああああっぁぁ!!」


 興奮した勢いで叫び、走る。

 ゴブリン・フォートレスの身体に飛び乗り、肩の足場に立つ。

 敵の後頭部に右手で掌底打ち、詠唱する。

 

「異界の深淵より出でる創造主に従い、この世の理を棄て、次なる段階へ躍進せよ! 〝進化エヴォルブ〟!」

 

 《進化発動エヴォルブ 進化発動エヴォルブ 進化発動エヴォルブ

 

 ゴブリン・フォートレスに連続で撃ちこんだ。

 緑色の身体はみるみる変色していき、次第に人間のような血色のいい肌になった。

 それは、急激にしぼみ、皮膚が割れ、そこからは大量の血が噴き出てくる。

 噴水のように撒き散らされるゴブリンの鮮血で全身が濡れる。

 僕は足場から滑り落ち、地面に頭をうった。

 視界が赤い、意識が遠くなっていく。

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