魔王がボランティア部に奇襲される話
魔王だ。
勇者も全然来ないし、暇過ぎて、魔王の間の掃除を始めた。広いから掃除し甲斐があるよ。よし、今日は徹底的にやるぞ。
そしたら、突然、魔王の間の空間に歪み出して、中からオカッパの身長の低い、地味な女が飛び出してきた。
「うぁ!!」
あまりのことに気が動転しながらも、頭に巻いた三角巾を上着のポケットにしまったのは、流石俺と言っておこう。
飛び出して来た女は、うつ伏せに倒れながらも、すぐに立ち上がり、首をキョロキョロと動かして辺りを見渡していた。決して美人では無いが、目がクリクリしていて、小動物の様な外見をしており、なんか和むな。
だが、和んでばかりもおられん。コイツが敵の可能性もあるものな。気を引き締めて行くか。
「貴様、何者だ?」
ちょっと低めのドスの効いた声を出した俺。良い感じに威厳を出せていると自負している。
しかし、女は物怖じせず、ペコリと一度だけお辞儀してこう言った。
「どうも丸々高校の榎田という者です。今日は何か金目の物を頂きに参りました。」
「泥棒なのか?」
「いえ、言い方が悪かったですね。あなたの寄付してくれた物が恵まれない子供達のノートや鉛筆になるって算段です。」
「そうか、そういう算段か。そこは理解した。」
だが、分からないことはまだあった。
「どうやって、この世界に来た?見慣れぬ服を見るに、異世界から来たと推測されるが。」
「流石は魔王様。見る目が違いますね。これは高校の制服です。可愛いでしょ?それでは早速寄付の方を・・・」
「待て待て、寄付する流れに持っていこうとするな。首の骨を折るぞ?」
脅しのつもりで言ったのだが、これにも榎田は瞬き一つしなかった。
「私は脅しには屈しませんよ!!私には溢れ出るボランティアスピリッツがありますから!!」
なんのこっちゃ分からないが、そこを掘り下げたところで有益な話は聞けそうに無かったので、あえてスルーした。
「あのな、この世界にどうやって来たか早く教えろ。」
「あっ、そうでしたね。実は科学部にマッドサイエンティスト的な知り合いが居まして、少しばかり非人道的な実験の末に完成した『異世界転移装置』を黙って拝借して来たのです。それがこの腕時計です。」
うーん、なんか非人道的だの、黙って拝借だの聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。
榎田の手首に巻いている銀色の腕時計を見たが、普通の腕時計に見える・・・まぁ、本当に異世界転移してきたワケだし、腕時計が異世界転移装置というのは疑わなくても良いだろう。
さてと、これで聞きたいことは聞けた。あとはこの女に寄付の返事をするだけだな。
「寄付はしない。とっとと自分の世界に帰れ。」
「そ、そんな!!この人でなし!!」
「元から人では無い。魔族だ。なんで俺が人間のために寄付なんてしないといかんのだ。絶対せんぞ帰れ。」
「うーん、あの玉座とか高く売れそうですね。」
「人の話を聞け。」
玉座にジーっと目を向けている榎田。だがやらん、絶対にやらんぞ。
「玉座下さいよ、ねぇ、玉座。」
「嫌だよ、早く帰れ。」
「別に椅子なんか何でも良いでしょ。ていうか立っとけば良いでしょ。」
「魔王に向かって立ってろとは、口が過ぎるぞ女。第一どこの魔王が立って勇者を待つんだ。どっしり玉座に座って迎え撃つと相場が決まっているのだ。」
「常識にとらわれていては、新しい考えは生まれませんよ。」
「黙らっしゃい!!」
ちっ、何か知らんけど相手のペースに巻き込まれている気がする。いっそのこと殺してしまおうか?
「もう、分かりました。仕方ありませんね。良いですよ、私の体なら好きにしても。欲しがり屋さん。魔王さん目付き悪いけどイケメンだし、黒いレザースーツに鎖ジャラジャラなビジュアル系バンドみたいな外見も、私嫌いじゃありません。さぁ、ベッドに行きましょう。」
そう言いながら、スカートの裾を少し捲り上げる榎田だが、これっぽっちもそそられん。私はロリコンでは無いのだ。大体、ビジュアル系バンドとは何だ?
「もういいから帰れ!!殺すぞ!!」
「はぁ・・・これだけ言ってもダメですか。分かりました後ろを向いてください。」
「急になんだ?・・・これで良いのか?」
自分でもビックリするぐらい簡単に榎田に背を向けた。すると、ピタリと俺の背中に何かが張り付いた。説明するまでも無い、榎田である。
「なっ!!何をする!!離れろ!!」
「ウケケ♪嫌だね♪絶対に離れてやんない。」
「ちっ、こうなったら無理矢理にでも。」
しかし、どう頑張って手を伸ばしても、榎田の小柄な体のせいで手が届かず、引き剥がすことが出来ない。クッ、これを狙ってやったとしたら、コイツは策士だ。
「このまま異世界転移してやる♪そんでたっぷり寄付させてやる♪」
「や、やめろぉおおおおおお!!」
俺の叫びは虚しく轟いたが、結果として榎田共々異世界転移させられた。
まぁ、俺は現金持ち歩かない主義だったので、結局、寄付とか出来なかったんだがな。
それで異世界転移装置が壊れたらしく、俺は失意のどん底の陥り、そのままボランティア部の手伝いをさせられ、榎田から執拗に肉体関係を求められる様になってノイローゼになるのだが、それはまた別の話である。