56.再び人形屋へ
そして僕らはそのまま街の人形屋さんに向かった。微かな記憶を頼りに歩いて行ったので、多少時間はかかって閉まったが、なんとか無事に辿り着く事が出来た。
僕は2年振りに、人形屋の扉を開いた。カランコロンカラン。
「んー。いらっしゃーい」
すると気の抜けたような声が受付越しに聞こえてきた。この懐かしい声は……
「ドールさん?」
「……おー。もしかして魔剣のアル君?」
「あ、覚えていてくれたんですね」
「もちろんだよー」
僕を思い出したドールさんは受付から出てきて、下から僕の身体をジロジロ見始めた。
「いやぁ……なんかたくましくなったねー?」
「あっ、ありがとうございます……えっと。ドールさんは変わりませんね」
「まぁ人形だからねー」
そう言いつつ上にも目線をやると、僕の肩に乗った人形のシンを見つけたらしい。
「あー。この子カワイイー」
「……お前が作ったんだろ」
「女の子っぽい仕草するキミに対して言ったんだよーふへへー」
「……」
言われてシンは僕の肩の上で、バタバタ足を動かし始めた……おい、痛いから暴れんなって。
「それで今日はどんな用かな? あれから新作、沢山増えたよー?」
「ああ、えっと今日はそうじゃなくてですね」
僕は箱を召喚して、盗んできた絵画と防具を取り出した。
「シンを人間にしてもらおうと思って」
「おおー。ちょっと見てもいいかな?」
「もちろんですよ」
そしてドールさんはそれらを一通り眺めた後。
「……これなら作れるかも」
と呟いたのだった。
「本当ですか!」
「うん、これならサイズも分かるし。ただ……完成まで何日かは結構かかるかもしれないよ?」
「それは大丈夫ですよ!」
そりゃでっかい人形を作るんだから、時間はかからない方がおかしいもんな。
そしてドールさんは「ありがと」と言って、防具を持って奥の部屋へ消えていくのだった。
さて。
「……良かったねシン。もう少しで人間になれるかもよ?」
「ああ。それはありがてぇけど……」
「けど?」
「死んだとされる俺がいきなり現れたら、他のやつらビビるんじゃねぇの?」
「……あー」
なるほど、確かにそれは考えていなかった。いくら何十年も前の事とはいえ、シンを見た事のある人はまだ多く生きている……
だからバレるのは普通にありえるし、バレたらバレたで更に面倒な事が起きそうだなぁ。
「うーん。なら謎のプレードアーマーの男として、顔を隠しておけばいいんじゃない?」
「それはだりぃ。アーマーとかクソ重いし……絶対着たくねぇな。さっきのあの防具も、できる限り軽くしてもらったやつだしな」
「えっ……シンって騎士だったんだよね?」
「ん? ああ」
「……」
騎士は全身を守るプレートアーマーとかを装着するのが普通だろ! って言おうとしたけど……やっぱりやめた。
シンに常識なんか通じないのは、僕が1番理解している筈だ……まぁ要するに。この案は却下という事だ。
「じゃあ……仮面でも被る?」
「馬鹿。わざわざ見える範囲を狭める奴があるか」
「あっそう……じゃあ女の子になれば?」
「真面目に考えろ」
「……」
大真面目なんだけどな……はぁ。何か考えるのが面倒くさくなってきた。
というかもう顔を隠すというより、姿を変えたらいいんじゃないか? でも顔面は変えられないからな……んー。なら。
「髪の毛を染めたらどうかな?」
「……」
これなら昔のシンとの印象も大きく変わるから、バレる確率は減るだろう。それでもバレるかもしれないが、何もしないよりマシだ。
うん。コレだ! とパチンと指で音を鳴らした僕に圧倒されたのか、シンは。
「……まぁ。それなら悪くねぇかもな」
と小さく呟くのだった。




