008 兄はシスコンで隠れ……
レンさん、そろそろ歳をとりたい(笑)
どうも。引き続きレンさんです。
ノックもなしに突然乱入してきたのは、見た目十代前半の少年だった。金髪に緑の目は姉さまと同じ、姉さまは母親似だというから、父親似ならばそうなんだろう。
推定、兄の登場である。伯爵家の跡継ぎとして養子に行ったはずだけど、ずいぶん我が物顔で威張ってるなぁ。まぁ、うち子爵家だから格下だけども。
ソファーに座ってる私達に向かって、真っ直ぐ歩いてきた推定兄は、私を姉さまから引き剥がすと姉さまを抱きしめた。
「きゃっ、おにいさま!?」
あ、やっぱり兄かー。しかし、2歳児を転ばすとは鬼畜だな。姉さま以外目に入らないタイプか? うわ、シスコンだな。しかも母親似の美少女な姉さましか見えないってことは、面食いそして隠れマザコンと見た。
「おにいさま、はなしてくださいませ。レンがっ」
うーん、どうしようかなぁ。兄敵かなぁ。とりあえず様子見かな。
「うぇー、ねえしゃみゃー」
泣いてみた。うそ泣きだけど、ポロポロこぼれる涙は本物。転がされてソファーから落ちてたし。ナディアナさんが心配そうに見てたけど、力関係的に出てこれないもんなぁ。
「レン!? おにいさま!!」
姉さまがシスコン兄を突き飛ばした。ショックでよろける兄を見もせずに、姉さまは私を抱き起こしてくれた。涙をハンカチで拭いてくれると、キッ、と兄を睨む。
「り、リリィ? どうしたんだい?」
「どうしたではありませんわ! いつからおにいさまはこんなひどいことをなさるようになったのです!」
いや、多分姉さま以外にはこんなもんかもよ?
「ひどい? 嫌だなリリィ。僕は愛しのリリィにひどいことなんてしてはいないよ?」
「わたくしではありません! レンにですわ!」
「レン? それのことかい?」
わぁ、それ呼ばわりされたよ。残念な方のお貴族さまに染まってるなぁ。私も一応妹なんだけど。
「レンはわたくしのいもうとです! それではありませんわ!」
「リリィは僕の愛しの妹だろう?」
「わたくしはレンのあねですわ!」
話、噛み合ってないよお二方。
「ねえしゃみゃ、みゅじゃにゃきょちょしにゃい」
「レン? むだなことではないわ。おにいさまにわかってもらわないと」
「ちゅうじにゃいしちょににゃにゆっちぇみょみゅじゃよ」
「そんな……」
ショックを受ける姉さまもかわいい。話せばわかってくれると思ってたみたい。残念だがそれは姉さま限定だと思われるよ。
「なぜ話が通じるんだ?」
「姉妹愛の成せる技では?」
姉さまだけじゃなく、うちはみんな通じるよ! てか、シスコン兄の後ろに影のようにいるお兄さんに、今頃気づいた。執事服だから、兄専属なんだろう。ドSクールビューティーって感じ。銀髪青目がまた似合うなぁ。
シスコンよりはドSの方が話は通じるかな。ちょいちょいと手でカモンしてみたら、素直に来てしゃがんでくれた。私の要求をさらっと言ってみると、ふむと頷いて頭をなでなでしてくれた。うむ、兄より頼れそうだ。
「ロータス様、リリアナ様にしか優しくできない、お子様で鬼畜な貴方にこの別宅に足を踏み入れて頂きたくない、とトゥレン様は仰っておられます」
「お前も話が通じてるようだが!?」
「気のせいです」
とりあえず帰りましょう、とドS執事はシスコン兄を引きずって行った。うむ、ブラボー。今後は彼が兄を抑えてくれるだろう。頼んだぞドS。あ、名前聞き忘れたわ。
こっちは荒ぶる姉さまをおやつで宥める役目が待ってるのさ。
兄は敵。てか、ただのおバカかも。