お茶会は女の戦場です? に
お待たせしました。
派手さだけが目立つ赤のドレス。金糸の刺繍がこれでもかと入れられていて、目に痛い。なんだろ、前はもっとセンス良かったのに。
魔術師長の婚約者さまは、侍女さん達に止められているにもかかわらず、それを無視して四阿までやってきた。
「ご機嫌よう、皆さま」
「貴女はお呼びしていないけれど?」
「ご機嫌よろしくないのは貴女じゃないのー?」
即行始まる女の戦い。あれもこれもマナー違反な分、婚約者さまは反論できない。
「まぁ、おかしなことを。貴女方ふたりが誘うのは、まずわたくしが先ではなくて? 庶民の女相手に、なぜそんな対等を許してますの?」
……できちゃうのか。いや、まずかろう。家格を考えたら親の立場がなくなるよ?
ちら、と私を見下ろしてため息。なんだろう、演技くさー。
「貴方も、わたくしの誘いは断るのに、権力に靡くのね」
いや、自分の方が権力笠に着てやりたい放題だったじゃん? あれとかこれとかそれとかさぁ!?
「比べるのは申し訳ないけれど、貴女より話が通じるわ」
「は? ご冗談がお好きですのね」
「冗談が好きなのは貴女でしょー? 私達が貴女を誘うわけないじゃなーい」
「は? 魔術師長の妻となるわたくしを誘わずに、誰を誘うというのです?」
「「未来の魔術師長?」」
「は?」
は? ばっかだなこの人。てかなんでまだ妻にもなってないのに、上からな態度なんだろ。元々か?
あれ、未来の魔術師長? そんな人がいるんだ? 確かに、魔術の研究だけしてたい人だもんね、うちの師長。まぁ、魔術塔所属のほとんどがそんな感じだけども。
「まぁ、いいでしょう。貴女にも話すことがあったことだし」
宰相夫人が婚約者さまを見上げた。視線は呆れと侮蔑を含んだ冷たいものだった。
「貴女、社交界に残りたいのなら、静かになさいな」
これ以上やらかしたら後がないぞ? ってこと? 的確で確実な一撃だなぁ。
「は? わたくしは静かですけれど?」
「あれでー? ないわー」
全くだ。
「ハリェス嬢にたいするあれやこれも含めて、貴女はやりすぎだわ」
「わたくしの優しさを無下にするこの女が悪いのですわ」
この女呼ばわりきたこれ。かなり見下してるの隠さなくなってきたね。
「優しさー? 自分の婚約者盗られるかもって焦っただけでしょー?」
「は!?」
どうでもいいけど、は? って口ぐせなんだな。
「忠告はしたわ。これから私達忙しくなるの。貴女に構う暇はないから、 大人しくしておいた方が貴女のためよ?」
「脅しですの? 宰相夫人ともあろう方が?」
ハッ、と鼻で笑うと、婚約者さまは挨拶もせずに去って行った。何がしたかったんだ、あの人?
最後まで席を用意されなかったけど、それに気づいて……はいないだろうなぁ。主催者から社交界への出禁宣告なんだけどな、あれ。
まぁ、マナー違反だから仕方ないな、うん。
「あちらの方もなんとかしないといけないわね」
「魔術師長がなんとかできるとは思えないけどー?」
確かに。
「相談するわ」
大人の都合と権力の兼ね合いですね、はい。
「で、本題なのだけれど。ハリェス嬢」
「はい」
「貴女、勇者の魔術指導してもらえないかしら」
はい!?
次話、ようやく話が勇者に戻ります。本人まだまだ出演してはもらえませんけど(笑)