勇者さまはご機嫌ナナメを突き進む
タイトル通りです(笑)
魔力で、宙に四角い切れ目を入れる。
「どうだ? できそうか?」
後ろでするウロウロハラハラな気配はガン無視する。
魔力を流しながら調整を繰り返すと、四角の中に映像が浮かんでくる。
「できたか!? できるのか!?」
「黙っててください」
うるさいから。
どうも。最近師長に容赦がなくなってきてる気がするレンさんです。
さっきの画面もどきをのぞくと、どこかの廊下が映っていた。豪華さから見て王宮で間違いなさそうだ。
覗き見じゃないよ、お仕事だよ。
私しか出来ない(人間では)らしいこの監視カメラもどきで、勇者さまの様子を探れということらしい。てか、師長が命令されたんだけど、師長できないんだよね。
イメージができないのが転生者との絶望的な差みたい。私達は日常的に見てたからね。
盗撮は犯罪なんだけど、なにせ召喚されてすぐに引きこもりになった勇者さまの様子を知る術がない。声掛けにも食事にも反応がない、部屋は中からカギがかけられてる、しかも結界が張られてて解除不可能なんだそうで。
勇者さまの魔力は魔王に匹敵するから、私達レベルでは太刀打ちできない。せめて様子を知りたいと宰相閣下が仰ったのだと。
廊下から部屋への侵入を試みるけど、案の定弾かれた。
「やっぱりダメかー」
「駄目か……」
「そりゃ突然誘拐されて、貴方は勇者だから魔王倒してね、とか言われたら怒りたくなるよねー」
「完全に向こうに都合のいい話だもんね」
「そう。こっちの事情とか困惑とか怒りとか、マルッと無視でしょ。ないわー」
「………………」
そう。私だって怒ったもの、気持ちわかるわー。勝手に誘拐して帰せないとかふざけんなだし、花嫁にしてやろうとかどんだけ上からなんだとか、まぁ色々ね。
「誠意を見せてきちんと説明するしかないのでは?」
話は通じるだろうし。聞いてくれるかは別だけど。
「いや、それが……」
「……は?」
言い淀む師長の要領を得ない話をまとめると、「使えない勇者なんかいらん、使えるのを再度召喚せよ」だそうだ。アホかと。
「今度は魔法塔からも派遣しろとお達しがきている」
「神官だけだから失敗したとか思ってるの、国王陛下?」
「あの方は魔力がないから、知識しかお持ちではないのだ」
だから勇者召喚しようとしてるの? 自分が持ってないのに憧れて?
「また引きこもりに当たったらどうするのかと」
「そこまで考えてはいないだろうな」
宰相閣下が説明するために、怒りを抑える説得から入るそうだ。なんてムダな工程がいくつ必要なのか、やれやれ。
「あなたがハリェス嬢?」
「はい?」
誰ですかね?
ほんともう誰ですかね勝手に出てこられると困るんですよねもう。




