手紙は始まりにすぎない。それなんてフラグ?
ご無沙汰してます。社畜をしておりました。
魔術塔での私の仕事は、ガラン師長へのお手紙の分類から始まる。
部下である魔術師達からの報告書が最優先。次に爵位順。
「伯爵、伯爵、男爵、公爵……王家、と」
ポイポイッと分類してはこに放り込んでると、王家の紋章が入った手紙を手に取った師長が、その手紙を私に差し出した。
「これは君宛てだが、ハリェス嬢」
……なぜに?
どうも。
だいぶ、この世界にも慣れてきたレンさんです。独り立ちも近いな。
さて、王家からの手紙だけど。見なかったことにしようとした私の前で、師長が開封した。ちっ。
「国王陛下が君に会いたいそうだ」
「なんでですか」
「腕利きの新人魔術師の噂が耳に入って、興味をそそられたのだろう」
「それ、女性限定ですよねきっと」
「あと、君への手紙を出しているのに返事がないとラリサが言っていたのだが」
ガラン師長の婚約者さまは、毎日毎日飽きもせず、同じ文面の手紙を送りつけてくる。どうせ侍女が代筆したものだろうけど、労力と紙がもったいない。
「私は誰とも婚姻はしないと、申し上げましたよね?」
「あ、ああ。それは聞いた。しかし、友人は作ってもいいだろう、と!?」
ミシ、と空気が鳴った。いや、鳴らしたのは私だけど。
「友人?」
「あ、ああ。ラリサも君がひとりなのを心配し、て!?」
師長の周りの空気だけが固まっていく。師長が気づいた時には動きを封じ込めていた。うん、こんなもんかな。
「結界の応用ってこれかな、琥珀?」
「いいと思うよ、あとは細かい調整が必要だけど」
「は!? え、な!?」
私の魔法の先生は琥珀である。うちの琥珀超優秀。
「は、ハリェス嬢?」
「ガルム師長の婚約者さまの仰る友人と言うのは、未婚の男性で婚姻相手を探している方のことを指すらしいのですが、ご存知ですか?」
「……は?」
「毎回同じ誘い文句のお手紙ですが、中身は要約してしまえば、さっさと婚姻して魔術塔を辞めろという脅しに近いものですが?」
「は!?」
「そうして婚姻したのならば、相手を紹介した婚約者さまに感謝して、社交界で婚約者さまのどれ、手下になれと、そう命令する内容ですけど? 本当にご存知ではないのですか?」
あんな手紙を毎日もらう私の身にもなれや。頑張ってスルーしてれば、まさかの師長へ根回しかい。いい加減我慢も限界なんだけど?
「……ラリサが」
「ちなみに、社交界の新勢力として台頭してきてるらしく、宰相夫人と騎士団長夫人が警戒しているそうですが、排除されるのも時間の問題ですよ」
「え?」
なんで自分の婚約者のことなにも知らないのこの人。社交界なめすぎじゃね?
「魔法師長の婚約者であるという後ろ盾を武器に、社交界に殴り込みに近い乗り込み方をしてるそうで、穏やかに社交界をまとめていらっしゃるお二方にもかなりのケンカ腰。魔術師長もグルなのかと疑われてますよ」
「……は!?」
いや、これくらい噂話に耳を傾ければ聞こえてくるけど? 私は情報は武器というリリアナ姉さまの教えを守って、情報収集してるだけだけど。
「そろそろ婚約者さまを抑えないと、別の方向から立場が揺さぶられますよ?」
私は無関係を貫かせてもらうがな!
色々始まりますねぇ(笑)