ここは王宮 彼は近衛騎士
レンさん毒舌復活の兆し(笑)
カツカツと踵を鳴らす靴音に、耳ざとい琥珀が顔を上げる。昼寝タイムを邪魔されて不機嫌なまま、私の肩に飛び乗った。
常時発動ステルスに加えて、魔力を加えて意図的にステルスを重ねがけすると、琥珀の結界が私達を覆う。
同時にバタン! と激しく扉が開いた。
「ハリェス嬢!!」
臙脂の騎士服を着た、前髪も後髪も長めな長身男性が花束と入って来る。
「……我の部屋の扉を破壊する気か?」
「ハリェス嬢はどこだ!?」
ドスの利いた声は、破壊神には届かない。
どうも。新たな世界で自分の立場を構築中のレンさんです。
あれから、魔術師さんーー魔術師長さんだそうーーのお世話になって、魔術師塔に就職した。師長付なので、他の人達と会うことはない。人見知りなのでありがたいわー。
しかも、私無詠唱で魔法使えるみたいで、魔術の難しいあれこれ必要ないっていうね。師長からしたら使える存在ってことで、とりあえずお給金は上がったわ。
そんなわけで、着々と貯金を貯めつつ魔法の精度を高めてるとこ。……なんだけど、問題がひとつ。
それがさっきの人、師長の幼なじみで近衛騎士のギードという人。
どうにも初対面でなにかあったらしく、ほぼ日参して来るようになった。
「ハリェス嬢をどこに隠した?」
「お前に会いたくないそうだ」
「はははっ、そんなはずないだろう!」
オメでたい頭だな、おい。
私が会いたくないのは本当だ。私はすぅちゃん一筋であり、彼以外の人と結婚はしないと誓いをたてた身だ。
あの、人の話を聞かないお花畑な脳みそも、えりあしが長い髪型も、どこまでもナチュラルに上から目線な言動も、なにもかも好きになれない。
騎士さんには魔力がないから、結界に引きこもった私達に気づくことはない。紺色のワンピースと魔術師を示す黒のローブの私は、傍目には地味なはずなんだけどなー。なんなんだろうなー。
「ところでガラン。婚姻証明書へのサインなんだが」
ガランは師長の名前だ。
「誰のだ」
「ハリェス嬢の後見人になってくれるだろう?」
「なぜだ」
「家族への顔合わせの茶会を開くが、お前も来るだろう?」
「ギード」
師長が宙に横線を引いた。むが、と騎士さんの口が開かなくなる。ずっとそのままでいいと思う。
「いいか、よく聞け。彼女は我の後見を望んではいない。養子も然り。理由は、お前のように彼女の意志を無視して婚姻を決めようとする輩がいるからだ」
「っ!?」
「あと、彼女はお前を嫌っている」
「っ!!??」
そう、師長は私を養子にしてくれようとした。けど私が断った。理由は色々ある。師長が言ったように、貴族になったら親の決めた婚姻が絶対だし、相手が格上なら逆らえない。
社交もしないといけないし、社交イコール婚活にもなる。だから、貴族にはなりたくない。守ってくれる家族はここにはいないから。
それに、師長と養子縁組したら、この国を出る時に支障が出そう。なにより、騎士さんの近くにはいたくない。
「むがむがー」
またまたー、みたいに笑ってる騎士さんの顔を見るに、また話が通じなかったんだろう。
「花束は邪魔だ、持って帰れ」
呆れたような師長の声。
ほんと、この人の脳みそどうなってんの?
いやほんともう、どうしてあの人こうなった?