留桜くんから見た弟の本気への考察
今回ちょっと長いです。
あの日、弟は壊れたのかもしれない。
温もりを失って行くひなを抱いた弟の慟哭は、誰の慰めも寄り添いも求めていなかった。
ひなが庇ったなつるの呆然と座り込む姿でさえ、霞んでしまう程の悲しみは、朱桜にしかわからない。
オレ達幼なじみだって、悲しかったし悔しかった。あの時一緒にいたのに、何も出来なかった。
呆然と、ひなを見送るしかなかった朱桜となつるは、ひなの葬儀の後引きこもってしまった。
「どうしよう、兄さん」
「朱桜、今日も食べてない」
双子の心配はわかる。オレだって同じ気持ちだから。でもこれは朱桜が呑み込んで消化するしかないんだ。
ポンと妹達の頭を撫でて、朱桜の部屋をノックする。
「朱桜。水分だけはとること。ひなが心配するからね」
大丈夫、朱桜は後追いなんてしない。ひなのことを一番知ってるのは朱桜なんだから。
朱桜は2週間で部屋を出てきた。なつるは1ヶ月かかった。
「ひなを探す。どこかに必ずひなのままいるから。負けない逃げない諦めない。そう言ったひながひなを忘れるはずない」
そう言った朱桜は、前を向いていたけど、見てはいなかったように思う。
なつると長くふたりで話し込んでいたのを見たあと、朱桜はうちの母に頼んで小さな袋を作っていた。
ひなが好きそうな青の布を、手縫いで袋にした朱桜は、それを首から下げるようになった。中身を妹達が知りたがっていたけど、朱桜は笑うだけだった。
あれはひなのものだからね。
中身は指輪だ。ひなの17歳の誕生日にプロポーズするつもりで、バイトして買ったもの。相談されたオレがバイト先紹介したから知ってた。
ひなが朱桜に片想いしていると、勘違いしてるのを指摘したオレを、朱桜は相談相手に選んだらしい。
いや、あれあのままだといつまでも両片想いだったからね? むしろなんであれでつき合ってなかったの、君たち?
なんとか立ち直った子供達と違って、大人はなかなか難しいようだった。
オレはわざと月命日をはずして、ひなの墓参りに行く。皆でワイワイもいいけど、今日は他にも用があるから。
「おじさん」
「ん? ああ、留桜か。来てくれたのか、ありがとうな」
城田家の真新しい墓石を掃除していた、ひなの父はふわ、と笑う。いやいや、儚げすぎだろ。
城田父は、オレ達と会わないように日をずらして墓地に来ていたことは知っていた。毎週来てはひなに話しかけてることも。それが今更だと本人も分かってることも知ってる。
「あのさ」
掃除を手伝いながら、オレは話しかけた。
「オレ達があなたの事信用しなかったのはさ、あなたがひなを見てなかったからだよ?」
ただ嫌われてるとか思ってないよね?
「理由もなしに行動しないよ? おじさん、自分と同じステルスなひなを、ステルスがないひなとして扱っただろ」
ひなは、オレ達の知ってるひなはさ、あのひななわけ。ステルス最強な、存在感薄いのに笑うと周りが明るくなるかわいい、かわいいひななわけ。
「一番ひなのステルスを知ってるはずのおじさんはさ、ステルスから、ひなから逃げてたよな?」
「…………俺は、自分のこの体質が嫌いだったよ。だから、皆が俺を認識できるようにいつでも騒がしい奴だった。そんなことをしても気づかれないし忘れられたりもしたけど」
ひなは、俺とは逆だったんだよ、と笑う姿は同情はしないが後悔に塗れていた。
「この歳になって、ようやくステルスと向き合うことができた時には、ひなはとっくに受け入れてたからなぁ。父親としてなんて、なにもしてやれなかったよ」
嫌われて当然だよなぁ、とキレイにした墓石に花を供える。
「ひなは家族を嫌ってなかったけど?」
「え?」
「嫌ってなかったよ。だからこそ、家族として今まで成り立ってきただろ?」
あれは、ひなとはなの努力の結果だ。努力しないとダメな家では、ひなが壊れちゃうとはながうちの母に相談してたのを聞いた。
はなが壊れないように、双子に見守りを頼んだのは正しかった。はなも疲れていただろうから。それでも家族への愛情があるから諦めなかったはなは、葬儀の後なつるをぶっ飛ばした。そらもうキレイなフォームで。
ツンデレなつるを改心させた会心の一撃、ギャグではない。
なつるは、あれ以来はなにもちな母にも優しくなったよ。オレ達と墓参りにも来るようになった。
「ひなもはなも、なつるも家族が好きだから、城田家は壊れなかったんだよ? だから、ひなのために、皆のためにすることはわかってるよね?」
静かに泣く大人はそっとしておこう。後で父に回収してもらおう。嫌がるだろうけど。大人は大人同士で解決してほしいよね、マジで。
ひなを安らかに寝かせてやろうよ、まったくさぁ。
そんな日常から朱桜が消えたのは突然だった。
目撃していた結花と晴実が家に駆け込んで、知った事実。
「突然、朱桜の足元が光って!」
「助けようとしたら、朱桜くん笑って『ひなに会いに行く』って」
「なになになんなの!? 朱桜とうとうおかしくなっちゃったの!? どこ行ったの!?」
ふたりの話を聞いて、頭を押さえた母。まさかねー、とか呟いたけど、うん、オレも同じこと思ってるよ、多分。
弟は、来世を待ちきれずひなに会いに行ったらしい。
ひな。
申し訳ないけど、朱桜はひながいないとダメみたいだ。魔王化する前に捕獲よろしくね。
に。終了予定です。さん。にてレンさん復活しますのでお待ちください。