066 始まるための終わり さん
お待たせしました。
ルルーリアと名乗った真っピンクは、いや、てか今なんつった?
「私の妻はひとりだけだが」
ピタリと音が止んだ大広間に、殿下の呟きが落ちる。王女と見つめ合ってるとこすみませんけど、今それどころじゃないから。
そう、王太子妃はもういる。未来の王妃としても申し分ない方が。一度貴族籍を剥奪された真っピンクは、候補に上がる資格すらない。
なんという思い込みの強さ。ポジティブシンキングにも程があるわ。
「さぁ! 名乗ったわよ! 王太子はどこ!? あたしにプロポーズする権利をあげるわ!!」
殿下の発言聞いてなかったんかい!
物事を知らない子供でもあの処罰だった。王太子妃を騙る愚か者に救いはないだろう。
王太子殿下と王女は、玉座の後ろにある隠し通路に無事逃げ込んだようだ。玉座の前には近衛騎士達が壁を作ってる。
公爵家の方から順に避難が始まってるが、家は伯爵家の末席だからまだまだかかるだろう。バルコニーからも出る人が増えてる。さて、どこから逃げる?
「ジャマしないでよー!」
叫ぶ真っピンクは、円型に囲まれた。誰も近寄りたくないんですねわかりますー。さ、その隙に逃げよう。
「セレイアなんかよりあたしが王太子妃になるんだからー!!」
なんで母さまの名前が出るんだ。情報古くないか? 修道院にいたって、情報は入るはず。こいつ、どこにいたの?
「レンさま、阿呆にかまう暇はありませんよ。こちらへ」
トールに手を引かれて、バルコニーに向かう。姉さま達もそっちに向かっていた。
「あ! セレイア! あたしの王太子を返しなさいよ!!」
なんで母さまを知ってるの? 会ったことないじゃん、子供の時だって対面したことはないはず。てか、母さまの隣を見なさいよ。父、こんな時にステルス発揮しない!
ずんずん進んでくる真っピンクを、囲んだまま円陣も進む。いや、止めてよ!
「レン!?」
思わず真っピンクの前に、両手を広げて立ち塞がってしまった。タンッとヒールが鳴った時だった。
足元が光った。
「え?」
私を中心に光が走り出す。円を描き、複雑な線を結ぶ。
「レンさま!? っ!?」
私を助けようと伸ばしたトールの手は、光に弾かれた。同じように伸ばした私の手も。
前世で見た漫画に載ってた、魔法陣みたいな、円型の複雑な模様が、光で描かれていく。
これ、ヤバいんじゃね? 私詰んだ?
この世界に魔法はない。だから、逃げ道はない、どうしようもない。
「みぃ!」
ここにいるよ、と鳴いた琥珀の存在に安心する。ひとりじゃない、琥珀がいてくれる。
「ちょっと! なにあたしより目立ってんの!?」
目立ちたくてこんなことしてるわけじゃない。けど、どんな理由も真っピンクには関係ないらしい。
ずんずん進んでくると光に手を伸ばす。また弾かれるだろう、見てなかったのかと思ったら、爪までピンクな手は弾かれることなく入ってきた。
「!?」
「レンさま!」
それを見たトールが再び手を伸ばして失敗する。トールはだめで、真っピンクはいいの? 何かを思った姉さまがラストルの静止を振り切って光に手を伸ばして、やっぱり弾かれた。
同性でもダメなら、なんで真っピンクはいいのさ理不尽!
もう時間がない。光の魔法陣は完成しつつある。
「レンさま!」
「トール、みんなをお願い」
「レンさま!?」
「レン!?」
この光の魔法陣から逃げられないなら、私はどこかに飛ばされるんだろう。それがこの世界なのかは希みは薄い。この世界に魔法はないから。
「こんな私についててくれてありがとう」
この魔法陣は、魔法がある世界からの招待状で間違いない。この世界に帰ってこれる保証もない。
ならば。
「ありがとう、みんな。大好き!」
最後は笑ってさよならしたい。
もっとたくさん話したかった。笑い合って一緒にいたかった。幸せな時間をもっともっともっと。
この思い出だけは忘れない。私が私であるために。
「じゃあね!」
「「「「「レンーーーー!!」」」」」
そうして、私は光に溶けた。
これで、いち。のレンさん視点は終了です。あと他視点でフォロー入れる予定です。着地するまでだいぶ流されましたが、ひとまず予定通り? です。