063 憧れのドレスはひとりで
琥珀久々ーー!
「琥珀ー、もう出てきていいよー」
「みぃ」
身体のサイズが自由自在な猫の琥珀は、今は成猫サイズ。今でも私のスカートに隠れていつでも一緒。
「お疲れ様でした、レンさま」
「トールもつき合いありがとね」
お見合い相手がいなくなった庭園で、琥珀をモフって癒されてると、トールがお茶を淹れてくれた。
「諦めてくれてよかったですね」
「ほんとに。あれでダメならトールに抱きつく所だったよ」
「その方が理解は早かったかと思いますよ」
「いやいや、トールの未来が大変なことになっちゃうからね、それ」
「私はレンさまのものですから」
「いやそれ誤解を招くぅ」
イケメンなトールはモテるんだからさー。てか、もしかしてそれ断り文句になんてしてないよね? 私刺されるのはごめんだよ?
「みぃ」
「わかっておりますよ、コハク」
「ん? どうしたの?」
「なんでもありません」
「みゃ」
なにー、男だけでわかりあっちゃってさー。拳で語り合うタイプなの?
「王太子殿下の婚約パーティ用のドレスの仮縫いが上がったそうです。ご試着お願いします」
「はーい」
お針子さんが待つ応接室に向かうと、ドレスが3着、トルソーにかかっていた。
この黒ドレスもそうだけど、伯爵家御用達のお針子さんとは好みが合うから、ドレスのデザインで盛り上がったんだよね。
派手すぎず地味すぎず、色は抑え目細部はこだわり、レースの模様編みを多種使用。おぉ、理想のドレスー!
「わたくしの、ちょっとデコルテ開きすぎだったかしら」
「今はアストを産んだばかりだから、どうしてもゆったりとしたものになるものね」
「お気になされるのでしたら、レースで隠しましょうか」
「そうね、いらない視線は避けるに限るわ」
「お父さまが見て下さるものね」
「あら、ふふふ」
幸せそうだなぁ。
母さまのドレスは柔らかな色合いのグリーンのドレス。胸が強調されるのが気になるようだ。デザインと色は父とお揃い。殿下に追い討ちかけるんですねわかりますー。
姉さまのドレスは白地の上に薄紅のレースを重ねたグラデーションドレス。キツい赤にならずに優しい印象だ。後でお針子さんに赤いタイを頼んでおこう。
殿下の婚約者は黄色とピンクのドレスだそうなので、被らないように目立たないように仕立てなければならない。ふたつ隣の王女だそうで、何度も会って話し合ってからの婚約になったのだとか。相性って大事だよね。
私のは白地に青いレースのグラデーションドレス。昔見た花嫁さんが着てたドレスに憧れていた私が、試しにお針子さんにお願いしてみたら、作れますよと。
デコルテはオフショルダーなんだけど、そこはレースで隠してもらった。
真桜ママと母が着てたウエディングドレスは憧れだった。写真を見て良いとこ取りしたデザインを落書きするくらいには、私も夢見る女子だった。
これを着て、すうちゃんの隣に立ちたかった。
純白は、すうちゃんの隣に立つ時だけ。でも、もう着ることはないから、せめてデザインだけでもと思った。
最近、やたらと昔を思い出すのは、17歳が近づいているからだろうか。
前世の私の生が終わった歳が。
名前だけのヒーローもうすぐ出番かなー。