062 お見合いはお断りの場です に
お待たせしております、よろしくです。
「できましたよ」
「ありがとう、トール」
ドレスアップして、髪をトールに編んでもらったら、戦闘準備は完璧だ。
「今日はよろしくね、トール」
「承知致しました」
トールの左手に、右手を乗せると歩き出す。場所は我が家の庭。お見合い日和で外は青空。ちっ。
今回はお見合いなだけで、その後のおつき合いを決めるつもりは無い。てか2度目はない。私がつき合いたいのも結婚したいのもすうちゃんひとりだけだ。
「ごきげんよう、皆さま。お待たせしました、ハリェス伯爵家トゥレンにございます」
トールに右手を預けたまま、ご挨拶。
テーブルにいた5人の男性は、立ち上がって私達を出迎えた。
「これはなかなか、うん、まぁ」
「似合うぞ、レン」
セレイア母さまの兄達は挨拶もそこそこ、正式な場だと言うのに態度が馴れ馴れしい。東西公爵家の2人は、挨拶は普通にすませてきた。そして隣国の第2王子。胡散臭い笑顔だな、おい。
「しかし、ハリェス伯爵令嬢。そのドレスは場違いではありませんか?」
やんわりと、西の公爵子息からのクレーム。まぁ、そりゃそうだよね。
私の本日の戦闘服、黒のドレス。レースをふんだんに使って雰囲気が重くならないように可愛らしいデザインだし、デコルテもレースで隠してある。誰が見せるものか。
この世界にも、黒は喪服なイメージがある。未亡人とかが着る色だって。だから、あえて私はこの色を選んだ。
「デビュタントの白は、これからどんな色にも染まりますとの意味が込められているとか。わたくしが黒を選んだのは、何者にも染まらない、染めさせない。その決意の表れにございますの」
意訳。当然、貴方達の色にも染まりません、あしからず。なので見合いもお断りじゃコラァ。
「しかし、領地経営とか困るだろう?」
「エルさま、信頼できる部下がおりますので不安はございません」
「女男爵が独り身では外聞も悪いだろう?」
「好きでもない方と一緒にいるより悪いとは思えませんわ、シルさま」
なにより、シスコンに用はねぇよ。
ニッコリと、貴方達に希望はないと宣言しておく。昔から私を知ってるふたりは、察したのか諦めた。元からそんなに本気じゃなかったんだろう。ダメ元とかそんな感じ。
もしくは、好意的に見て公爵家ご子息への盾になってくれようとしたのか。結婚しなくても、婚約者にしておけばしばらくは男避けにはなるだろうし。
なんせついこないだまでの私、女男爵で次期女伯爵だったし。今はセレイア母さまの子が伯爵家は継ぐだろうけど。なんせ唯一の直系男子。
公爵家の次男三男には美味しい物件なのだ。
「わたくし、婚姻するつもりはありませんの。将来は男爵領地に引きこもるつもりですし」
「そんな、女性としての幸せを自ら手放すと?」
「女性の幸せは婚姻だけではございませんわ」
だから好きでもない相手と一緒にいる方が苦痛だっての。
「私なら領地経営を手伝えるし、貴女の邪魔にはならないと思うが?」
「隣国の第2王子ともあろう方が、たかだか男爵領ごときで満足できるとも思えませんわ。実力はかねがねお聞きしておりますもの」
「卑下するほど男爵領の悪い噂は聞かないが」
「上を目指せばキリがございません。わたくしが望むのは領民全ての穏やかな暮らしです」
またうちに手を出そうなんて考えないでもらおう。次は逃がさない。
知ってるよ? うちの愚王唆して私と婚約しようとしてるの。それを知った、王妃殿下と宰相さまが逆に隣国の王を説得して、第2王子の婚約者は西の公爵家のご令嬢にほぼ決まりかけてるよ? 貴方が帰国する時には嫁が一緒だね!
ちなみに西の公爵令嬢、容姿はそこそこだが中身はアレだと有名だ。お似合いだろう。
「そうですわね。どうしてもと言うなら傷物になりますわ」
「「「「「……!?」」」」」
「それくらい、わたくしにはありえないお話ですの。そして、誰かに傷物にされたとしたら命を断ちます。責任を取って頂く必要はありません」
私の覚悟をなめんなよ?
ようやくいち。の終わりが見えてきました。