061 お見合いはお断りの場です いち
婚姻事情始まります
失恋の痛手をようやく(てかマジで長かった)癒した第1王子が婚約者を決めたのは、セレイアさまがハリェス伯爵夫人になって2年もたった頃のこと。
どうも。求婚の釣書に埋まりそうになってるレンさん、16歳です。
応接室を埋め尽くすようなそれと贈り物を放り投げてると、ソファーに座ったセレイアさまから声をかけられた。
「リリィも貴女も、そろそろ婚約者を決めないといけないのではなくて?」
産まれたばかりの赤子を抱いて、母になったセレイアさまがゆったりと微笑む。乳母はつけずに自分で育児をしてるセレイアさまを、父もイクメンとして支えてる。幼妻と愛息子に、もうデッレデレだ。
「伯爵家はアストがいるから大丈夫でしょう? 男爵領はトール達がいるし」
ハリェス伯爵家跡取りの男の子、アストはセレイアさまと父の良いとこ取りな赤子だった。いやこれマジで将来美少年。お姉ちゃんは君の将来が心配だよ。
「そうではなくて、わたくし達は貴女に幸せになって欲しいのよ」
「セレイア母さま。私は十分幸せです」
そして、姉さまのお見合いは断固阻止させて頂きます。最近、ラストルといい感じなのだ、姉さま。あれからラストルはホント真面目に鍛錬したり勉強したりして、姉さまの隣に立てるまでになった。
美男美女って眼福だよね。
同じく正式に執事になったトールは、私付きとして私の代わりに領地と王都を行き来してくれている。
身長ぐんぐん伸びやがって頭いっこ以上、上にある顔は遠い。イケメンだけどね。知ってるけどね。
「そうね。今のところ、縁を繋ぎたいお家もないし、旦那さまも元々そんな気はないし」
権力なら母さまのご実家にあるから十分です。縁談なら、ご実家の兄君達の心配しましょうよ。理想と現実は違うんだって言ってやってー。
「あら、お兄さま達のなら、そこの中にあるでしょう?」
「……は?」
「ありますよ」
トールからすっと見せられた釣書は、確かに宰相閣下のご子息達のもの。なにやってんだよ、あの人達。
「本気でレンに申し込んでいるのよ?」
「申し訳ありませんがお断りします」
「あら、つれないわね」
「いや、母さま。私ほんとに無理。勘弁してください」
「そう?」
母さまが無理矢理見合いさせようとかしないことは知ってますけどね? さすがにこれはないわー。
私にアストを任せた母さまは、トールから渡される釣書を凄い速さで分類し始めた。
「これは分不相応ね。身分以前の問題だわ。公爵家も身分が高すぎるし。こちらはご実家に問題があったはずね」
あっという間に、却下の方が山になった。残ったのは宰相家ご子息達と騎士団団長さまの養子君となぜか隣国の第2王子。……だから、ないわ。
「さすがに、隣国の第2王子と侯爵家は会わずにお断りは難しいわ」
「母さまのご実家はすっぱり断ってもいいですか」
「いいわよ? 好きじゃないならしょうがないもの」
「いや、嫌いじゃないですよ? 婚姻したいほど好きじゃないだけで」
「それは、本人達には言わないであげてね?」
「? はい」
しかし、会わないとダメかー。向こうからお断りしてもらうにはどうしたらいいかな。
「ハリェス伯爵家の評判は落とさないようにね?」
難しいです。
次回はお見合いです。