060 正妃と側妃は大違い よん
着地です。
その日、王宮に報告が上がった。
ひとつは、第1王子殿下の正妃候補である、侯爵令嬢セレイア嬢が候補より外れることを申し入れるもの。
もうひとつは、侯爵令嬢セレイア嬢とハリェス伯爵との婚姻証明書の受理を申し込むもの。
王族、特に第1王子殿下の取り乱し方は酷く、セレイア嬢の父である宰相閣下が王妃殿下に詳細説明のため呼ばれたとのこと。
「娘は暇を見つけてはハリェス伯爵家を訪問しておりました。私も最初はご令嬢方に会いに行っているのだろうと思っておりました」
「……違ったと?」
「そのようです。先日、候補から外して欲しいと初めて懇願されました。聞けば伯爵を想っていると」
「で、伯爵は」
「娘のように可愛がってくれておりましたよ。奥手ですから」
「でしょうね。それが急にどうしたというのです?」
「すぐに候補からは外せないだろうから、少し待つように説明を。娘は殿下が許さないことを知っておりましたから」
「それは、まぁ。説得はしていたのですが」
「派閥のことなども知っておりましたので、根回しを始めた所、まぁ、その」
「? なにか?」
「……娘がハリェス伯爵を押し倒しました」
「まぁ!?」
「泣き落としたのか無理矢理なのか。ともかく、娘から押して押して押し倒したのだと」
「あのセレイア嬢にそんな行動力が」
「妻にそっくり似ていたようです。押しかけ妻になると伯爵家に移り住んでしまいました」
「……それは、もう、仕方ないことですわね。お祝いを贈っても?」
「ありがとうございます。殿下には大変申し訳なく思います」
「あれの片想いなのは、誰が見ても明らかでしたから。叶うはずもなかったのですよ」
その日からしばらくの間、王子殿下は泣きながら寝込んでしまったのだとか。
いや、私は宰相さまに許可をとって、セレイアさまにプレゼンしただけですよ?
その中の手っ取り早い方法をセレイアさまが選んだだけですよ?
まさかこんな案がありますよ、って言った次の日に実行に移すとか思わないじゃないですかやだー。
いや、マジであの行動力にびびったわ。
だから父、横にセレイアさまを引っつけて情けない顔で私を睨むんじゃない。
「さっさと嫁取りしない自分のせいでしょう」
「あら、それではわたくしが困りますわ」
「ですよねー」
「リリィとレンはお父さまの味方じゃないのかい!?」
「「セレイアさまの味方です」がなにか?」
「ぐっ」
「まぁ、嬉しいわ」
女に勝てない父、哀れ。でも超美少女な嫁が来たんだ、喜べ。
実際、コトに及んだかどうかは問題じゃないのだ。同じ部屋同じベッドで一夜を共にしたと言うのが重要なのさ。
しかも目撃者はご令嬢の父、宰相さまとくればもう、外堀は綺麗に埋まって存在すらなかったことになるって寸法です、はい。
セレイアさまの行動力は母君譲りだと、宰相さまが嘆いてはいたが、父なら娘の夫としてもまぁ、及第点だったようだ。
婚姻証明書が受理されたぞー、と嫁父にさらっと言われて、なにもかもをやっとこさ諦めた父が、今更ですがとセレイアさまにプロポーズしたのは、また別の話。
色々予定が狂ったので、次回はレンさんの婚約事情です。