058 正妃と側妃は大違い に
ここでこれ? とおもわれるかもしれませんが。
宰相さまとの会談の帰り、騎士団団長に久々に会った。てか、なんか作為を感じるよね。
カーテシーにてご挨拶をすると、騎士の礼プラス右手にキスで返された。脳筋じゃなければウットリできること請け合いである。顔はいいもんなー。
「宰相に困らされたか?」
「宰相さまと言うより、まぁ」
「ああ、殿下関係か」
脳筋の割に察しはいいんだよね、この人。てか、脳筋のフリしてる疑惑浮上中。
「派閥の力関係とか考えろと妃殿下に諭されてるんだがなぁ」
「恋は盲目とも言いますからね」
「だが王族としてはいかんだろ」
「建前的には? でも、王族も人ですから」
「……大人だな」
セレイアさまにガチで惚れてる男に、恋するななんて言えないじゃないか。私なんて前世からの片想いを引きずったままだというのに。
「ところで団長さま。そちらはどなたでしょう」
首を傾げてうんうん唸ってる脳筋の後ろに、直立不動の青年がひとり。背が高いから分かりにくいけど、かなり鍛えられた身体をお持ちだ。真面目に鍛錬した結果がちゃんと出たんだろう。
どこかで見た気もするけど、どこだっけ。
「ああ、こいつは王都騎士団上がりで、騎士団の試験を首席で突破して入団したばかりなんだ」
「まぁ、優秀ですこと」
「俺の後釜に据えたいから、これから鍛える」
「……程々にしてさしあげてくださいませ」
無表情を保ってたけど、ちょっと引きつったぞ、今。
「そろそろ挨拶させてやってくれるか?」
「? はい」
私に? なぜ?
「いえ、団長。自分が挨拶など烏滸がましいにも程があります。ご令嬢にご迷惑を」
私が迷惑に思う騎士団の人? 誰かいたっけ。
まじまじと青年を見てみると、団長に似ていた。団長よりも、筋肉以外は殿下にそっくり。てことは、まさかの弟殿下か!?
「随分大人になられましたね」
「だろう?」
お互いに名乗りはしない。してしまえば、この場は正式なものとして記録されてしまう。だって人の目しかない王宮だもの。
「いえ、あの時が子供すぎたのです。ご令嬢にはご迷惑をおかけしたばかりか、怪我まで」
申し訳ありませんでした。と頭を下げる青年。いや、あの弟殿下が謝罪するなんて、てか王族は謝っちゃダメじゃん!
「今の自分はただの騎士団の騎士です。殿下が立太子され、ご成婚なされば臣籍降下するつもりですし」
なんと立派な! 別人じゃね? てなくらいまともになってるんだけど。
王族としてのノブレス・オブリージュもしっかりわかった上で、彼はこの場に立ったんだろう。真摯に謝罪する心は理解した。ならば、返事をしないと失礼だよね。
「謝罪は受けました。許すかどうかはそういう問題じゃない気がするので。ご自分がどうあるべきか、考えてたどり着いた結果が今ならば、それでよろしいのでは?」
「しかし」
「今、貴方の周りの方々は、貴方に苦言を呈しますか?」
「いえ、し」
「幼い頃の話です。反省をいかせるならば、もう間違いを犯すこともないでしょう? 王族の方々をお守りくださいませ。今の貴方はそれができる立場にあるのだから」
「まだまだ鍛錬が必要だけどな」
団長さまのツッコミが入ったけど、そんなのあと数年もしたら問題なくなるでしょ。努力は必要だけど。
ならば、変えられない過去を嘆いてる場合じゃなかろう。
「つ、あ、ありがとうございます」
「いずれ、王族になるかもしれないご令嬢のことも、お守りくださるとありがたく存じます」
「はい、必ず」
深い礼の後、弟殿下は先に下がった。やっぱりこのためにいたかー。
「謀りましたね」
「悪いな。あいつには必要なことだったからな」
「かまいませんよ。まともなら話が通じますから」
「だよなー。最初は全然会話にならなくてなー」
「それより、私許してませんがよろしいのですか?」
「構わんさ。あいつが謝ることが大事なんだ。むしろ許しがない方がまだまだ頑張るだろ」
鬼や。
これはちょっと先の話だけど。
長いこと病気療養中だった弟殿下は、静養のため王族から貴族の養子に降り、領地に下ったと正式発表があった。
馬車は空だけどな!
身分だけの移動は、宰相さま達一部の人しか知らないトップシークレットだ。
その後、団長さまが養子をもらったと少し噂になった。なかなかのイケメンなので、ご令嬢達が群がってるそうだが、敵は朴念仁。「まだまだ若輩者なので」と相手にされないそうだ。
そんな感じで女っ気がないことと、騎士団という男所帯なせいで、貴腐人なお嬢さま方が、あれやこれやそれやといやんな妄想に取り憑かれて祭りが起きたようだけど、知らない方が幸せなことって、あるよね?
次回は久々のセレイアさま、の予定(笑)