049 兄には兄のプライド に
生存報告です。私は大丈夫です。皆さまもどうか気をつけて。
寝たふりとかシスコンのくせにいい度胸だ姉さまにチクっといてやろうそうしよう。
身体を起こしたシスコンは目の下に隈があり、まだまだ疲れが抜けてないのが丸わかりだ。さりげなくクッションを挟む執事、仕事する気あるんだな。
「よくわかったな」
「そっちの演技が大根なだけ」
「ダイコン?」
「演技がヘタクソな人をそう言うのです」
「そうか」
腹黒執事が用意したティーセットは私の分だけ。ありがたく飲みながら、シスコンを見る。
「ハリェス家に連絡したのはお前か」
「私がしなくても、いずれ知られておりましたよ」
いずれどころかリアルタイムで知ってたけどな、父。
うちの父のステルスからの地獄耳を舐めてはいけない。てか、あの人シスコン兄のことは定期的に様子を調べてたみたいだから、隠すだけ無駄だったな。
血は繋がらなくても、息子だと認識してるのだ。ヘタレから脱却したら、えらく男前になったものである。大事なとこには間に合わないけど。そして涙目で暗躍までがお約束だ。
「それでなくとも、ハリェス子爵には大変お世話になっているんだ。余計な負担は迷惑になるだろう」
「そんな他人行儀な言い方すると泣くよ、あの人」
完全なる善意だからね、そこはありがたく受け取るべきだろうに。若いなー。
「あの方、突然子煩悩になられましたね」
腹黒執事が遠い目をして言った。なにか被害にあったのだろうか、ご愁傷さまとしか言いようはないが。
あの人は関わり方を知らなかったからね。愛情のかけ方も受け取り方も分からなかったのさ。シスコン兄も同じでしょ。だから、しつこいくらいに姉さまに執着してたんじゃないの。
「「…………」」
ぱちくり、とふたりはそろってぽかんとした。イケメンってどんな表情してもイケメンってほんとなんだなー。
「まさか、気づいてなかった?」
「異常なほどの妹君への想いは性癖だとばかり」
主に対してすげぇ暴言だな、腹黒執事。
いや、気づけよ。母親の面影を姉さまに求めてたのもあるだろうけど、あの執着は異常だろう。
「母親からの愛情がないのは当たり前だったろうけど、今の父からの愛情は疑う余地はないからね。安心して頼るといいよ」
だから、姉さまを守るのは自分だけだと思い込まなくていいからね。
私の発言に、無言で倒れ込むシスコン兄。またタイミングよくクッションをはずす執事。さすがー。
「……誰にも言ったことはない」
「見てればわかるでしょうよ。てか多分姉さまも知ってるよ。無駄なことしてないで子供に戻んなさい」
「もう大人だ」
「親からしたらいつまでも子供だよ。家族の前では自分らしくしたって誰も怒らないんだし、むしろ嬉しいんじゃない? 姉さまは心配してたよ?」
無理して大人ぶらなくてもいつかはならなきゃいけないのに、子供らしくあれる時間を自分からすてるなんて、なんておバカなのこの兄。
あれみたいにならないように、あれの風評被害に遭わないように、この兄は兄なりに姉さまを守ってた。
自分だって愛情もらう立場だったのに、幼い姉さまを優先した。それが義務感だけだったなんて誰も思わない。
むしろあれのことに頭を悩ませる大人達にとってはありがたいことだったろう。あれから産まれたのに誰も似なくてほんと良かったなー。
「お前本当に僕より年下なのか? 大人と話してるようだ」
「達観してるのさー」
「妹に諭されるなんて、僕はどうかしていたようだ」
この人、今初めて私の事妹って言ったぞ? 聞き間違いか? いや、あれ?
「顔赤くして、まぁ」
「うるさい」
ニヤニヤする腹黒執事は置いといて、とりあえず怒れる姉さまに説教されなさいね。
その後、笑顔の大魔神こと姉さまと、涙目の父が来て、ステレオ説教かまされた兄が「助けて父上」と泣きついて、号泣した父に抱きしめられてジタバタすることになるのは、まぁお約束ってことで。
早くコロナが治まりますように。