048 兄には兄のプライド いち
花見がしたい……
シスコン兄が倒れたとの連絡を受けたのは、王宮でのあれこれが落ちついて、久々に琥珀のもっふもふを堪能していた時だった。
至福の時間を邪魔するとは、おのれシスコン兄、トドメ刺してやろうか。
どうも。ストレス大敵琥珀天使、のんびり自室で寛ぎたいレンさんです。
伯爵家で寝込んでるとのことで、家族で唯一、予定の無かった私が兄のお見舞いに向かうことになったが、あまりにぶすくれた私を見て、トールがお目こぼしで馬車の中では琥珀をもふり倒していいことになった。トールグッジョブ!
大体、なぜに私が見舞いに行かなきゃならんのさ。シスコン兄は姉さまのみに発動するスキルだぞ? 私が行ったって喜ばないだろうに。
「あー、いやされるぅー」
「みぃあ」
「いい子だねー、琥珀」
「みぃ」
「あー、行きたくなぁいー」
「うみゃ」
琥珀にぐでんぐでんに溶かされてる私を、微妙な表情で見るトール。子猫サイズの琥珀は大人しく私にされるがままだ。本当ならビッグサイズに抱きつきたいところだが、トールいるし馬車の中だし自重。
「姉さまはあとから?」
「はい、お茶会を終えたらと。ラストルがついております」
肉食女子のターゲットになるラストルの未来が見えるな、かわいそうに。わんこ系ラストルは年上から人気だ。ちなみにトールは年下からの人気が半端ない。
もふもふの白い毛に埋もれながら、肉球をぷにぷにする。はー、柔かーい。
「離れたくないよう、琥珀ー!」
「みゃうみぃ!」
「そう? 一緒にいてくれる?」
「うみゃ!」
「ならいいや」
「……会話しているように見えるのはなぜですか」
気のせいです!
ぐでんぐでんに溶けていた私も、伯爵家が近づく頃には起き上がっていた。琥珀には隠れてもらい、令嬢としての身なりを整える。
「いつも思うのですが、どこに入っているのでしょうか、そのネコ」
「ひ・み・つ」
私も知らないものを教えられるわけがないじゃんかーやだなーもぅ。
「過労、とな?」
どうやらシスコン兄は働きすぎて倒れたらしい。いや待て、兄の職場って一応王宮だよね? え、ブラックなの王宮文官って?
「文官としてのお仕事の他に、伯爵家領地の経営を学ばれておりまして」
腹黒執事が呆れた様子を隠すことなく言う。相変わらず主を敬う気持ちはないらしい。面倒かける弟ポジションだもんなー。
すぅすぅと寝息を立てているベッドの住人は、夢でも見てるのか眉を寄せてたまに唸ってる。まぁ、言わずと知れたシスコン兄だけど。
ベッドの傍に置いた椅子に座った私から見える、兄の横顔はまぁまぁイケメンである。見た目と中身は反比例するけどな。
「で、なにをそんな焦ってるの、この人?」
「……お気づきでしたか」
3日と開けず姉さまに会いに来てた奴が来なくなったら、そらなにかあったと思うだろう。一応兄なわけだし? だからトールに頼んで探らせてはおいた。主に父がステルスで聞き耳立てたんだろうけど。
ちなみに、この前の王宮での出来事に間に合わなかった父はマジ泣きした。その後、宰相さまと組んでなんかやってた。暗躍してるつもりだったみたいだから、気づかないフリしといた。王宮を裏から牛耳るつもりなら、ぜひ応援するつもりだ。打倒、使えない国王。
「そんな早く爵位が回ってくるの、この家?」
「いえ、現当主はまだ若くていらっしゃるので、当分先になるかと」
「じゃあ、問題は別にあるの」
困ったシスコンだこと。
「……で? いつまで寝たふりしてるの」
「……なぜ気づいた」
バレバレなんだよ、阿呆。
不要不急って、意味わかりにくいと思うのは私だけ……?