045 王宮とお茶会とステルスと に
大切な時間を皆ですごせるよう、コロナの収束を願います。
びちゃん! と自分から音が生まれた。左の方から。頬から下にかけてなにかかぶったみたいでつめたくて気持ち悪い。
触っても不愉快。土泥じゃんこれ。あー、ドレスまで汚れた……ナディアナさんが選んでくれた、ドレスを、汚した? 誰が?
「……いい度胸だ」
「じゃまをするな!!」
「っ!? いたっ」
低く呟いた声は、キャンキャン吠えるバカの声でかき消された。同時にぐいっと髪をつかまれた。……トールが結ってくれた髪になにしやがったこいつ?
考えるより身体が動く。髪をつかんでる腕の方に踏み込んで、頭を向けて力を削ぐと、腕を捻るように身体を回す。外れた腕を逆につかんで捻ると背中に回って足を引っかけて倒す。
「いったいいたいー!! なにをする!?」
「自己紹介だな。やっていい事と悪い事の区別もつかんのかこの阿呆。そもそも許される歳は超えてるだろうに。やったらやり返されても文句は言えないんだ阿呆が。それとも自分で手に入れたわけじゃない身分で親に泣きつくか? 情けない阿呆だな」
あらいやだ。口から本音だけがツルッと。拘束を解いて離れた私は、セレイアさまを背に庇って立った。
「レンさま!? 大丈夫ですの!? ああ、こんな、ひどい……!」
「なにをしてるんだルタオ!!」
「!? なにって、兄上にちかづく女にせいさいを」
「馬鹿なことを!!」
やっぱりブラコンだったかー。
「あなたがしたことは、セレイアさまにたいするぶじょくとぼうこうみすいです」
実際は私にしたことだけどな!
「おうぞくとはおもえな、っ!?」
「ルタオでんかになにをなさっていますの!!」
「レンさま!?」
追求の途中で誰かに突き飛ばされた。横からの衝撃にまたも転がる。さすがにないわー。
私を突き飛ばしたのは、婚約者候補のご令嬢だった。くっるくるに巻いた茶髪が印象的なご令嬢は、私をスルーして第2王子を起こそうとしている。
「大丈夫ですの、ルタオさま!?」
「でんかにたいしてなんというふけいでしょう!!」
「ありえませんわ!!」
身分に忠実な行動だな、オイ。しかしまぁ、許さないことに変わりはないな。敵認定入りましたー。
「大丈夫かい? 弟がすまない」
「第1王子殿下!?」
ひょいっと私を起こしたのは、セレイアさまの隣にいた第1王子だった。膝をついて、私のスカートの泥や草を払ってくれる。
「ありがとうございます。ですが、でんかがよごれてしまいます」
「ルディさま、レンさまの手当てをしたいのです」
「わかっている。汚れも落とさないと。すまないが、支度をするまで待っ」
「準備なら整ったわ。ハリェス子爵令嬢はこちらに」
子供がそれぞれの主張を叫ぶだけの騒がしい庭園に、凛とした女性の低い声が響いた。途端にしん、となる会場。大人の威圧は効果覿面でした。
……わぁ、王妃さまキターー!!
この時期に雪ですが、お身体には気を付けてください。