038 怒るのは家族のためなんで。あなたのためじゃありません、あしからず
久々に長くなりました。
カツン! と姉さまの靴が音を立てた。ヒール低いのにすげぇ音した。石畳抉れたんじゃね? ていうくらい。
「レンにしゃざいを」
怒ってる怒ってる激おこ姉さま怒ってる笑ってないよ怒ってる怖っ!!
どうも。激おこ姉さまの止め方を知りたいレンさんです。これ切実。
わかってないおバカさんは、やれやれみたいに苦笑した。見下してるつもりらしい。立場が理解できてないようでなによりだ。てか、自分の立場がまだわからないってどんだけー。
「レン?」
私は姉さまの前に立った。
「わたしはとぅれん・はりぇす。はりぇすししゃくけのあととりよ」
初めての、いや実質二度目ましてだが、あれはノーカウントだろう。産まれたその日の記憶はさすがにないしな。
「跡取り? なにを愚かな事を」
「わたしのかおにみおぼえはない?」
「え?」
話が通じない阿呆になに言っても無駄だもの。父が来る前に叩き潰す。
「ないの? おかしいわね。あなたのよくしるひとに、わたしはそっくりなのだけど? ああ、それともそれだけきょうみのないひとだったのかしら?」
面倒だが、なるべく見下してるような言葉を選ぶ。私は女優私は女優、ある意味今は悪役令嬢だ!
「……? なに、を……」
バカにしたように笑いかけて、女は動きを止めた。まじまじと私の顔を見てくる。ようやく気づいたか。
「ろーれ、ん?」
最近になって、一緒にいなくても、父によく似てると言われるようになった私の顔。忘れるはずないよね。
「トゥレン様は、ローレン・ハリェス子爵のご息女です」
「う、嘘よ! あれがわたくしを、わたくし以外の女となんて!」
「あら、なにがふしぎなの? あなたはほかのおとことばかりあそんでいたのに? あなたはさいしょからあいされてなかったじゃない。ちちのこどもをうんだこともないのに」
女は自分のことを父が愛してると信じてたのか? あり得ないし、むしろ嫌われてたのに幸せな人だね。
「こ、子供なら産んだわ! わたくしはローレンの子供を!」
「へぇ、あってももらえなかったのにどうやって?」
「お酒に媚薬を仕込んだのよ!」
「はい、げんちとれました。はんざいをどうどうとかたるなんて、おろかにもほどがあるわね?」
「な、っ!?」
父は妻に迎えた女に興味がなかった、と執事長が言ってた。あの一件以来女嫌いに近かったとも。そらトラウマにもなるだろう、女に襲われたなんてさ。
「子爵家風情がなにを偉そうに!!」
「その子爵家に縋りつきにきたのは自分だろうが!! いつまで偉いつもりだこの色キチガイが!!」
なにかがぶっちーんとキレたね!
「自分がなにしたかわかってないにも程があるわ! やったことは全て犯罪! 身体も心も傷つけといて自分こそ被害者だなんてどの面下げたら言えるわけ!?」
私達が知らないだけで、被害者はもっといるかもしれない。
「身分だけで許されるわけない、むしろ自分の全てをもって償え! 出来ないだろうけど!」
出来ないから幽閉しか手段がなかったんだよね、きっと。喋らせたらアカンタイプだもの。
「ねえさまがあんたに見てもらうためにどれだけの努力をしたか、知らないでしょう? 知ろうともしなかったでしょう? 努力も、悔しさも、涙も! 笑顔がとってもかわいいのすら、知らないでなにが母親なの」
つらつら言葉が出てくる。姉さまが言えないことも、私は言える。
ふざけんな、いい加減にしろやこの阿呆。
「貴女、自分しか愛してないのよね。姉さまをかわいがったのも、そっちの子を溺愛したのも、自分に似てるからでしょう? だから、自分に似なかった娘を拒絶したのよね。無理矢理襲った男にそっくりだったから」
「あ……な、え」
「顔も名前も知らない娘に見下される気分はどう?」
「ーー!?」
ようやく思い出したらしい、私という存在。気づきもせず、勘違いしたままでもよかったんだけど、黙らせる方が先だしね。
私は父に似てるから。多分シスコン兄は目の色と顔が微妙だったから拒否られてた。姉さまは目の色が少し違ったけど、顔は似てたから可愛がられた。父は唯一あれに靡かなかったから。
執着した理由がそれなんてバカみたいだよねー。おかげでどれだけの人が被害を受けたか。
「そんなあなたにここにいるしかくなんてないの。おかえりいただける?」
そこでガクブルしてる男ふたりも一緒にね!
さて、次回弟は反省できるか!? です(笑)