037 初めての邂逅。そしてふざけんな?
阿呆な母子編が予定外に長くなっております。
まず、うるさい父親ズを引きはがした姉さまは、無言の圧力で元弟を黙らせた。威圧感半端ねぇ眼力に半泣きの元弟。気持ちはわかるが同情はしない。
どうも。姉さま無双の予感に一歩後ろに下がりたいレンさんです。しないけど。
「もとはくしゃくれいじょうであったあなたは、今はただのとが人ですわ。そのあなたにじゆうにできるお金はないはず。どうやってここまできたのです?」
努めて淡々と言葉を紡ぐ姉さまは、ハリェス家の女主人の顔だった。7歳でここまでできるのは並大抵の努力じゃなかった。夜中まで勉強してたの私は知ってる。ヘタレ父があれのことを包み隠さず話したのも、姉さまの全てを話してほしいという懇願があったからだ。
じゃなきゃ子供にあんな話しない。てか父は最後まで抵抗した。血は繋がらなくても親子として踏み出したばかりだったし、父は姉さまを手放す気なんてさらさらなかったしね。
それを押しきった姉さまの凛々しかったこと! この凛々しさをもてよ父! と思った私は悪くない。
「なにを言っているの、リリアナ? わたくしはこの家の主人よ? 帰るのは当たり前だし、かかった費用は家の誰かが払うでしょ」
おい、主人の前が抜けたぞ。どんだけ偉いつもりなんだ、この人。
「りえんされたでしょう。ご自分の行いのおかげで」
「わたくしはなにも悪くないわ。あの男が約定を違えたのよ!」
「夫以外と通じる時点で不貞が成立します。契約には入っておりませんでした」
「執事ごときが口を出すものではないわ!」
「しんらいできるしつじちょうには、それをゆるしています」
姉さまが言いにくい話を執事長がさらっと引き継いだ。父より頼りになるな、執事長。
しかしまぁ、話の通じないこと。会話が成り立たないし、自分悪くないって子供かよ。
「リリアナ、貴女なにか勘違いしているのではなくて? あの男になにを吹き込まれたのか知らないけれど、本当にわたくしは悪くないのよ? それに、なぜ女主人のように振る舞っているの?」
いや、事実を理解しないのは罪だろ。てか自分どんだけ姉さまを傷つけたと思ってるのさ。腹立つわー、とムカムカしてたら、姉さまのため息が聞こえた。
「……ほんとうに、おかわりありませんのね」
あ、これアカンやつや。姉さまの怒りゲージ振りきれる一歩手前だ。
「あなたが、ごじぶんだけをあいしてらっしゃるのは知っておりますわ。わたくしへのきょういくも、気がむいたときだけだったのも」
……弟が産まれるまではまともだと思ってたら、違うらしい。てか、姉さまは全てを知ってたのか。
「あなたに見てもらうために、いろいろどりょくもしましたけど、どうしようもなくて心がこわれそうになったとき、わたくしをすくってくれたのはレンでしたわ」
私? え、なにしたの私。甘えるだけ甘えたけど、救ってなんてないぞ?
「あなたがあまえてくれて、いっしょにいてくれて、あそんでくれて、はじめてわたくしはかぞくというあたたかいものにふれたの。しつじちょうにおこられたのも、お父さまとお話できるようになったのも、なにもかもはじめてで、楽しかったわ。あなたがいなかったら、わたくしはこわれていたでしょうね」
そんなことさせませんとも! 美少女はいるだけで正義だ! しかも中身もいい子なら言うことなし! 姉さまもセレイアさまも文句なしの淑女なんだから!
「れん? だあれ、それ?」
……随分な爆弾を投下してくれやがったなぁ、おい。
まだ続く。そして姉さまは導火線が長いっぽい。てか、レンさんの方が確実に短いですな、はい。