003 姉は反抗期、後。
本県受験生の皆さま、ファイトォー!
「……だれ?」
わぁ、声までかわいーい。……て、違う。
ちょっと涙声が気になって近くまでよってから挨拶してみた。
「とーりぇん・はりぇしゅじぇしゅ」
お子さま仕様、カーテシー簡易版を披露。そしてすぐさま終了。体力ないからね!
「じょうしちゃの?」
あー、まだ2歳なんでカミカミは見逃して欲しい。そんなことより、泣いてた理由だよ。
金髪に緑色の瞳の美少女は、薄いピンクのドレスをあちこち汚して、木の根本にちょこりと座っていた。汚れは土かな、てことは泣いてた理由は。
「けぎゃしちゃの?」
足を動かさないようにしてるし、当たりかな。
「ちょっちょ、ごめんにゃ」
スカートをちょっとまくると、「きゃっ」とかわいい悲鳴が聞こえたがスルーで。バレエシューズみたいたヤワな布靴が土で汚れてる。うーん、汚れすぎてわからん。
小川が近いのを思い出して、ハンカチを濡らしに走る。転ばないようにね、お留守番組に心配させちゃうからね。絞らないで戻ると、ごめんねとまた謝って靴を脱がせてそっと水をかける。
「あー、はりぇちぇりゅにゃ」
転んだのね、多分。それも森の中で思いっきり。よく見たらあちこち汚れてるし。そら足も捻るわ。ハンカチはそのまま足に巻いておく。もう一回走って予備のハンカチを濡らして戻り、手と顔を拭く頃には落ちついたみたいだ。さすが美少女。
「わたくしはリリアナ・ハリェス、5さいよ。そしてたぶん、あなたのあねだとおもうわ」
座ったままだけど、キレイな挨拶を返してくれた。
「あー、じぇしゅりょねー。はじめまちちぇ?」
「ええ、よろしくね。あと、いろいろありがとう」
「じょういちゃしまちちぇ」
とりあえず、リュックのお茶を半分こして飲んだ。おやつも仲良く半分こ。
「あなたのおやつをうばってしまったわね」
「こにょほうぎゃおいしいにょ?」
「そうね、おいしいわ。ありがとう」
美少女はちゃんと常識的だったよ。あの高笑いの母の娘さんだから悪役令嬢みたいな高飛車な人だったらどうしようかと思ったんだけど。
「すてきないれものね」
「えへへー、ちゅくっちぇもりゃったにょ」
わーい、誉められたよ、ミリーヤさんナディアナさん!
「……あなたは、おかあさまがいなくてもぜんぜんへいきそうね」
「あっちゃこちょにゃいもにょじぇ」
「……そうだったわね」
どうやら母親のことでお悩みのあまり森に駆け込んだようだ。ヒロインのようだね美少女改めお姉さま。聞くだけは聞くよ? 役に立つかはわからんけど。
「おとうとがうまれたのはしっている?」
「にゃまえはしりましぇんぎゃ」
「そう。おとうとがうまれるまではね、おかあさまもわたくしをきにかけてくれていたの。しゅくじょきょういくとかおちゃかいのまなーとか。すぐひつようになるのですからね、って」
めんどそーなのやってるねお姉さま。さすが貴族。
「だけど、おとうとがうまれたらはなしてくれなくなったの。わたくしがはなしかけてもきこえてないみたいで、ずっとおとうとしかみないの。ずっとずっとよ」
あー、5歳児には辛い現実っすねわかります。ある程度構われたあとの放置って、最初から完スルーより酷いんだよね。
しかし、弟よ。思ったより君の状況も酷いんじゃね? このままじゃママンにべったりなマザコンになるか、逆に反抗しまくりの不良になる道しか見えんのだけど。
弟にだけ執着する母親が、どこに向かってるのかがさっぱりわからん。美少女泣かすなよ。
「わたくしもきぞくのむすめとして、おとうさまのいいつけどおりにしたがわないといけないのはわかっているけれど」
「まだごしゃいなんちぇこじょもにゃんじゃから、しゅきにしたらいいにょに」
「え?」
貴族の娘がなんだ! その前に遊び盛りの子供じゃん? やりたいことやらんでいつやるのさ。
「トゥレンは――」
「レンでいいにょ」
「……レンはこどもなのに、おとなみたいね」
残念ながら大人になった記憶はないから、子供プラス子供だと思われますお姉さま。まぁ、高校生の記憶があるから、今よりは大人かもしれないけど。
「あなたは、おやしきにいないのによくしってるのね」
……あー、だからそれは、うん、ねぇ? 過去の自分のやっちまった黒歴史とでもいいますか、はい。まぁ、前世の私の最初の記憶なんだけどもさ。
いつの子供も、子供なりに苦労してるよねぇ。
桜月的には某アイドルの活動休止がね……がふっ。