035 初めての遭遇。挨拶はいらないよね
遅くなりました。
今年もお世話になります
「わたくしはこの家の女主人よ! 開けなさい!!」
薄汚れてはいるけど、元は上等なドレスだったのだろうと思われる布を纏った女が叫んだ。
女主人だと? うちの女主人は実質姉さまだ。父がヘタレすぎて嫁が見つからないせいである。子供がいる時点でマイナススタートだというのに、後ろ向きすぎるわあの父め。
どうも。引き続き馬車の中でかくれんぼなレンさんです。
……ん? 今なんつった?
「おんなしゅじん?」
それに当たるのなんて、いや2年前までならいた。いたけど!
「レン!?」
扉にはカギがかかってるから、窓を開けた。顔を出したら髪が風にとばされてうぷっ、てなったわちくしょう。髪を払って、見えるようになった周りを確認する。
私達の乗ってる馬車は門を入ろうとして停まってる。護衛さん達と揉めてる4人は門を塞いで立ってるようだ。
護衛さん達とやりあってるのはひとりだけで、あとは後ろからぎゃんぎゃん叫んでる。その中のひとりだけが女性だ。あれが、もしかしたらーー。
「ごえいさんたち、そのひとたちこうそくしてなかにはいって! ここじゃめだつ!」
「は!? いや、トゥレン様!? しかし、」
「せけんてーー!!」
いいから、早く中入って執事長呼んでこいや。
「まったくもってお嬢様の仰る通りです。我が館のまえで騒ぎなど、主の仕事に差し支えたらどうするのです」
と思ったら来たよ執事長。そしたら護衛さん達の動きがマッハになった。キビキビと拘束して引きずって行った。騒ぐ声が悲鳴になったのは言うまでもない。
てか、最初からやっとけや阿呆。
結果。
父と離縁した伯爵元令嬢で、名前も知らない元母親と元弟、そして父親ふたりの御一行さまが門前で暴れていらっしゃった、で間違いなかった。
どうやって遠い伯爵領からここまできたんだ? 王都から伯爵領までは馬車で2週間はかかると聞いてるぞ? 領地に幽閉だから見張りもいたはずだし、お金も持ってなかったはず。
後ろ手に拘束されて地面に座らされた4人は、護衛さん達に囲まれて大人しい。安全が確認されて、ようやく馬車を降りることを許された私達は、それだけでなんかぐったりだった。
姉さまが執事長の手を借りて降りる。私は背が小さいので抱っこである。最初は恥ずかしかったんだけど、これが結構楽しい。高いとこからの眺めは違うよね!
「とうさまは?」
「今こちらに向かっております。あちらとあちらには手配済みです」
「おこってなきゃいいけど」
「怒る事柄ですよ、これは」
抱っこされて近くなったので、内緒話をしとく。姉さまはちょっと緊張してるのか、執事長の横で大人しい。馬車の中である程度の覚悟はしたみたいだけど、やっぱり子供だからね。母親のあんな姿は見たくなかったろうし。
私よりあの女と長くいたのだ。声を覚えていてもおかしくない。
さて、どうなるかなぁ。
そして続きます