030 キレてます? キレてないです
名前難しいですねー。
ぽたぽたと髪から水滴が落ちる。淹れたてじゃなくてよかった。火傷したら大変だもの。
どうも。現在まったく望まぬ修羅場模様なレンさんです。
「レンさま!?」
トールがハンカチで拭いてくれるのをそのままに、前を見据えた。今逃がしたら、もう二度と会うことはないだろう彼女に聞いておかないといけないから。
中身を空にしたティーカップを握ったまま、私を睨みつけている少女は、侯爵令嬢のお取り巻きのひとりだった。てかご令嬢を悪役に仕立てあげようとした張本人だ。自分の方がよっぽど悪役に向いてるんじゃね?
今日この場に招待されていないはずの彼女は、どうやって入ったんだろう。彼女は家ごと侯爵から切られたはず。誰か協力しないとここにいることさえ出来ないのに。
でもまぁ、証拠か証言がほしいかな。対策を打つにしても情報が足りなさすぎる。また姉さまに怒られちゃうじゃん。
「あなたがしくじったのは、あなたのせいよ。わたしじゃないわ。さかうらみであなたはじぶんのしょうらいを、じぶんでつぶすのよ」
あえて挑発するような言葉を選ぶ。子供にはこれで十分だ。
「わたしのせいじゃないわ! あんたのせいよ! おとうさまにおこられたのも! おかあさまにたたかれたのも!」
「だれにそういわれたの?」
「だれ? だれ、ってあんたの!」
「わたしのせいだっていったひとがいるんでしょ? だれ?」
早くしないと侯爵家が動き出す。彼女だけのせいにされて、生け贄になって消える未来しかない。
「あのこが! あんたのせいだっていったのよ! セレイアさまにすてられたのはあんたのせいだって! だからここにいれてくれたしあんたのところにもつれてきてくれたの! だから!」
「みなさま、おききになりましたわね? 彼女はあやつられただけだったと」
間に合った。主犯じゃなければなんとかなる。貴族でいるのは無理でも生きてはいける方がいい。
「あの子とはだれのこと?」
セレイアさまとは侯爵令嬢のことだ。彼女が捨てたわけではないのに、それが真実かのように言われて信じてしまったのか。唆されて私に恨みをぶつけようとするなんて、親が知っていたら止めるだろう。ならば。
「トール」
「はい」
自分の上着を私にかけたトールが目配せする頃には、ラストルが私の後ろにいた。それを見たトールが離れていく。ラストルと一緒に来た姉さまの視線がブリザード。怖いよ寒いよー。
「あ、あのこは、」
「あぶなーいっ!!」
侯爵家の使用人が近づいて、カップを取り上げようとしたその時、子供の声がして塊が突っ込んで来た。
真っピンクの塊は使用人にあっさりと転がされた。
「いたーい!!」
塊は女の子だった。
まぁ、つけなくてもいい感じにいけるかなー。でもぺーぱーはつけないとなー。