028 悪役令嬢に出会った。逃げる? 話す? それとも……
隠れてこっそり観察でしょう!
いつの時代も、子供も大人も、女が3人集まれば姦しい。
「初めまして。ハリェス家のトゥレンと申します」
「レンさま、マナーだけは完璧ですよね」
うるさいよ、トール。
どうも。ご令嬢の化け猫を被って愛想笑いをする、相変わらずのレンさんです。
姉さまのお供をするトールとラストルが、将来有望な伴侶候補として人気だと知ったのは、私が5歳になってお茶会に参加するようになってからのことだった。噂話はえげつないよねぇ。
爵位はないけど、堅実で収入のいい執事候補な彼等は、嫁にいくか職業婦人として生きていくしかない彼女達には眩しく映るのだろう。てか、子供なのに後がないって。お貴族様って世知辛い。
てか、貴族への嫁入りを諦めてる時点でどうなのと思わなくもないが、王家に御子が産まれた時に(言い方は悪いが)仕込まれた子供はとても多いのだ。
競争の場にすら上がれないまま退場なんてよくある話なのである。
今私は、父と共同事業で識字率の普及を目指してるところだ。目指せ自立する女性達。
私自身、このまま侍女を目指して一直線かと言えばそうでもない。父の仕事を手伝うのも悪くないし、自分で商会を立ち上げてみたら、と考えることもある。
どうやら、随分と視野が狭くなっていたみたいだ。反省反省。未来はなにも決まってないし、先は長いのだから。
そんな時に出会ったのは、負けることなど知らない、そんな世界のお姫さまだった。
「わたくしのドレスにおちゃが!! なんてこと!」
自分からぶつかっておいてその言い種。何様か、お姫様だ。ラノベの悪役令嬢かのようなやり方だな。縦ロール金髪碧眼の真っ赤なドレスなんて、超お似合いだな?
「どうしてくれますの!?」
「あ、あの、わ」
かわいそうに、ぶつかったご令嬢は真っ青だ。震えて言葉も出ない。当たり前か、悪役令嬢は侯爵家。震えてるご令嬢は伯爵家。親の爵位でとる相撲は楽しいか、そうか。
「トール、主催者の伯爵夫人を。ラストル、侯爵令嬢のお供を探して来て」
「「はい」」
さて、どうしたものか。
ステルスを意識すると、スカートの中で琥珀が動いた気配がした。どうやってか知らないけど、琥珀はいつも私のスカートの中に隠れてるのだ。安心するけど、やっぱ謎。
私は真っ青なご令嬢に近づいた。
「かっぷをかたづけたほうがよろしいのでは?」
すり抜けながら呟いた声に、ご令嬢はカップをテーブルに置いた。カチャン、と音を立てたそれに皆の視線が集まった隙に、悪役令嬢の背後に回った。
「そのようにいばるだけでは、しゅくじょとはみとめてはいただけませんよ?」
確か、噂話ではこのご令嬢が王子の婚約者に一番近いとか。どうせ親に周りを味方につけろとか言われてるんだろうけど、逆効果だからそれ。
まずはマナーと勉強だろうとうちの姉さまが言ってるよ。内面を磨かないと醜さが顔に出るのだそうだ。怖っ。
子供に大人の事情なんて理解できるはずないじゃん。その結果がいじめっこの誕生だ、笑えなーい。
「やさしいかたを、おうじでんかももとめるとおもいますが、きらわれたいですか?」
落とした囁きは、子供の脳に吸収されるだろうか。少なくとも腹黒なオッサン共よりはわかりやすいと思うんだが。
「だ、だって、おとうさま、が。どうした、ら」
あ、パニックになった。諸悪は侯爵か。子供になにやらせてんだよ、犯罪者にしたいの王家外戚になりたいのどっち?
「こういえばいいのです。『つぎはおきをつけになって? おけがはなさらなかった?』と」
「つ、つぎはおきをつけになって? おけがはなさらなかった?」
「は、はい!」
そのまま入ってきた侯爵家の侍女にパスした。評判が悪くならないといいけど、お取り巻きはお貴族様に洗脳済みっぽいなぁ。染まらなきゃいいけど。
「こっそりあんやくとか、放っておけないんですね」
「レンさまは意外といいや、いや、やさしい方なんだぞ!」
やめて、なにかが削られてく気がする。
「あら、わたくしの妹はかんぺきなしゅくじょを目指してますわよ?」
あ、やべ。姉さまの目が笑ってないや。
「ばしゃの中で、せつめいしてもらえるかしら、レン?」
「よ、よろこんで!」
このあと、むっちゃ怒られた。よけいな首は突っ込まない方がいいらしい。
うちの姉さまがやっぱ最強である。くすん。
あ、伯爵令嬢をかばったことは誉められたよ! さすが姉さまアメとムチ!
さて、話がちょっと動きましたねー。名前考えないとなー、長い付き合いになるしなー。