025 覚醒した男は仕事が早い
いや、早くはないだろうよ、父。
話をきいた限り、父はヘタレだった。家を守るためとはいえ、逃げた上に流されすぎである。
そんな情けないヘタレの娘であることが判明したレンさんです。
最早突っ込みしかなかった父の過去の話だが、覚醒した父は思い切りがよすぎたよ。もっと早くやっとけよ、と言いたいほどに。いや、執事長は言ってたな。
さて、ヘタレを返上しようとした父は、まずあれの実家に行ったよ。不貞の証拠をたんまり持って。
不貞と散財で離婚はできるのかなぁ。
「建前はそれだけでできますよ」
てことは裏があるのか。
「旦那様は、存在感が消せる、というか夜会などの多数の中に埋もれると本当にどこにいるかわからなくなるのですよ」
……ん? なんかそれ思い当たるのだけども。
「なので、あちこちから表に出せない、出したらあちこちの貴族の首が(物理的に)飛ぶような話を押さえることができるのです。何件かありますが聞かないことをお薦め致します」
ぉおぅ、なんという適材適所。あれ、なんか違う。てか父、あんたもステルスだったんかい! 遺伝子最強だな!
「あの方のご実家に関する話もありますので、交渉はすんなりいくと思いますよ」
脅すんかい。子爵家が伯爵家の上に立ってもいいもの? いや、表に出なきゃいいのか? いやいや、あれぇー?
疲れた顔だったけど、意気揚々と帰ってきた父曰く、結果として離縁は成立したそうな。マジか。おバカ兄の跡取りの地位はそのままに、現当主は家への干渉をやめることになった。今まで妻の実家だからと、収入を掠め取られてたそうだ。これだからお貴族様はよぅ。
離縁に発狂したあれは伯爵家の領地に弟と幽閉されることになったそうだ。マジか。てか、弟も?
「手遅れだった」
あー、矯正不可なほどお貴族様に育ってたか。2歳だったか、弟。あれ、私が4歳になるから3歳になるのか。三つ子の魂百までだが、遅かったか。
幽閉先への移動も一波乱あったらしいが、鬼畜にも弟の父親候補のふたりも一緒に放り込んだ馬車の中は、修羅場が躍り狂ったらしい。父の助言だそうだが、そうかそんなに怒ってたか。
こんな簡単に片付くとは思ってなかったよ。なんかまだありそうだ……いや、フラグは立てないよ? そんな危険なものはいらんし。
逃げる必要のなくなった父は、執務室から出てくるようになった。別館に1日一回は顔を出して、お茶やら食事とかを一緒にとるようになった。
姉さま驚いてたよ? 私と一緒で、お茶会の話の時が初対面だったらしいし。そして私を見て「お父様似なのね」と呟いた。あ、姉さまも噂知ってましたか。姉さまに聞かせた奴後でシメる。
ちなみに、バカ兄は固まってたよ。なんかあれほど清々しい顔の父は初めて見たそうだ。そらそうだ。ここのところは爆睡しまくって執事長に叩き起こされてるんだもの、父。まったく、もっと早く片付けとけばあんなフラフラになることもなかったのに。
まぁ、できなかった大人の事情もあるんだろうけど、私子供だからわかんなーい。
「子供の発想ですかね、それ?」
うるさいよ、執事長。
執事長には本性見抜かれてそうですね。