001 冒険には程遠い
始まります。亀更新ですがおつきあいくださいませ。
…………で、もしかしなくとも私は生まれ変わってしまったとか、そんなオチかい?
おいおい、オトしてどうする。
さて。今現在私は多分2歳くらい。赤ん坊の頃はありがたいことに、現実逃避と悲しみで泣いて寝落ちを繰り返してたので記憶はない。いや、あれやこれやなんて覚えてたら恥ずか死ねるじゃない? ねぇ?
わかってるのは、私は死んだということ。そして産まれました。2歳だというのにフリフリふわふわなドレスを着る世界に。地球ですらないらしい。おーまいがっ。
この世界の名前は知らないけど、この国の名前はガジェディタン王国。読みにくいし呼び辛い。そして私はハリェス子爵家次女トゥレン。……馴染めないわー。
私の乳母をしてくれる女性と、侍女の若いおねーさんの会話からここまでは理解できた。しかし、私はまだ2歳。行動範囲も住んでる離れの中、寝室と居間くらいだし、なによりちょっと動くとすぐ眠くなるというね!
乳母に抱っこされてポンポンされるとすぐ寝落ちするこの身体、どうしてくれよう。どうしようもないわ。
離れには3人しかいない。母には会ったことがない。なんでも現在第4子を妊娠中だそうで。どうやら男の子が欲しいらしい。長男は本家である伯爵家の養子になってるそうで、姉は政略結婚に使えるから、と次に期待したものの、産まれたのが私。おおう、すみません?
なんか発狂したらしいよ? 取り乱すとかじゃなく、発狂。私を見るとそうなるから、やむを得ず離れに避難という感じになったみたい。そのままずっと住んでる。だから、母はもちろん父にも会ったことがない。
いや、おかしかろ? 母はともかく、なぜ父に会わないのかと思ったら仕事人間だそうだよ、父。めったに家にいないんだそうだ。よくそれで子供できますね。大人の事情ですかそうですか。
この国、てかお貴族様にはよくあるそうだよ、ネグレクト。育児放棄しても代わりに育てる人はたくさんいるのがお貴族様。金と人は足りてますってか。愛情は大事だと思うけどなぁ。
子爵家のわりに本宅と離れがあるのは、資産が潤ってる証拠だけど、本宅が見えないくらいの森が間にあるのって、普通? 今なら迷子になる自信しかないわ。
窓によじ登って森を見てたら、力尽きて落ちた。廊下に絨毯敷いてあってよかった。痛くなーい。
「まぁ、レンさま? どうしてこんなところに」
あ、おねーさんに見つかっちゃった。2歳児の体力なさすぎるなぁ。冒険とは名ばかりの情報収集に出たはいいけど、乳母さんーーミリーヤさんのいる厨房にたどり着く前に、他の部屋覗いたり外見たくなったりしてたのだ、私。てか、廊下の端っこで転がる二歳児もどうよ。
「また冒険ですか?」
くすくす笑いながら、私を抱っこしてくれたのは侍女のナディアナさん。推定十代半ばのかわいいおねーさんである。
「みりのちょこいくにょ」
舌も足りてないね! こんちくしょう! あー、うん。泣かない悔やまない諦めない。よし。
「ミリーヤさんの所ですか? お腹空きましたか」
「うんにゃ、おみじゅにょむにょ」
……滑舌良くする練習でもしようかな。
食堂でレモン水(だと思う)を飲みながら、ミリーヤさんとナディアナさんの会話に耳を澄ます。こんな時だけ使えるステルス。
「……奥様はまだ?」
「今朝お印があったそうで、そろそろだと本宅は準備を始めたようです」
「そう。いつになったらレンさまに会っていただけるのかしらね」
心配ありがとう、ミリーヤさん。しかし心配ご無用。私もネグレクトな母には会いたいとは思わないから。兄とか姉には会ってみたいけど。少しくらいは仲良くしたいじゃないか。甘いかな?
小さな私の小さな世界は、ミリーヤさんとナディアナさんとの3人で回ってる。今だけは、まだこのままがいい。ちなみに、ミリーヤさんは二十代前半のほんわかしたお姉さんだ。
その夜、本宅に赤ん坊の産声と、母らしき人の高笑いが響いた、らしい。
だって、私寝てたからね!
桜月、せっかちですが、今回は細かくいきたいと思います。