018 テンプレはいらないんだけど
そろそろおバカの名前を考えないと……あ、いらないですかですよねー。
壁から生えてたバカの上半身が、すぽっと消えた。後ろから誰かに引っ張られたんだろうけど、誰に? てか、壁の向こうから聞こえる悲鳴に怒号。なにか起きてることは間違いない。
やな予感しかないわー。できるならスルーしたいわーなレンさんです。できないけど。ここ我が家の敷地内だし目撃しちゃったし。
「こはく」
「みぃ」
私の意図を察した琥珀が、壁の向こうに消えた。私はバカの消えた穴を通って外に出る。狭いし土埃がすごいな。貴族のお坊っちゃまが、よくこんなとこから出入りしようなんて思ったものだ。ちっ、今日の水色ドレスはお気に入りなのに。
外に出てスカートの汚れを払うと、私は伸びをした。顔を汚い布で隠した男と目が合った。ここ目出し帽なんてないもんなぁ。
その男は自分の背に琥珀を乗せていた。うん、うちの琥珀はお利口さんです。
「いまのうちにはいって」
「な、は、……え?」
お坊っちゃまは腰を抜かしておられた。甘ちゃんめ。その腰にあるのは玩具か。
私はお坊っちゃまの腰の剣を鞘ごと抜くと、その身体を壁に押しつけた。いや、素直に穴に入れよ。もうひとりいた子供を見ると、察したのかお坊っちゃまを穴に押し込んで自分も飛び込んだ。うむ、こういう時役に立つのはお供の方だよね。
「こはく」
「みぃ」
バカの安全を確認後に琥珀を見たら、琥珀の下にいる男が増えてた。うちのこ、めっちゃ有能。なでなでするために背伸びをすると、琥珀の方から頭を下げてくれた。
なでる頭はいつもより大きい。いや、身体もだけどね。うちの琥珀さん、なぜか身体の大きさを自由に伸縮自在できる。なぜだ。いやまぁ、別にいいけども。
今は大型の虎より少し大きいかな。可愛らしさに変わりはないけど。あーもふもふしたい。
「みぃ」
あとでね? 待ちますとも!
さて、とバカの剣(子供用だけどちゃんと切れる)を誘拐犯につきつけたら、ひいっと悲鳴を上げた。野太い野郎の悲鳴なんて誰得なのよ。
私の護衛が駆けつける頃には子猫サイズ。うちのこ、すげぇ。誘拐犯は気絶してたので捕獲は簡単で、警らの下級騎士さん達に引き取られていった。
さて、バカはどうしてるかな。
空気が凍えるレベルの威圧感ってなに。姉さま魔力があったらバカを氷らせてたんじゃね?
別宅の応接室。
笑顔で怒れる魔神な姉さまの前で、バカが正座してた。おかしいな、この世界正座なんて反省の仕方ないはずだけど。
「……わたくしのたいせつないもうとを、きずつけただけでなく、ずうずうしくもなきごとをいいにきてあまつさえひとさらいをたいじさせた、と」
愚か者にもほどがありますわ。とかわいらしい姉さまの声が毒を吐くその威圧感半端ない怒りに、バカは涙目で震えてた。
うん、まぁ。自業自得だよね。
姉さまを怒らせてはいけない、が暗黙の了解な別宅。