勇者くんの不憫なリアル に
皆さま、気をつけてよい休日を。
「なんで女になってんだよしかも美女ってなにそれお約束なの!?」
「魔力が余ってたからな。これで寿命はお前と同じくらいだな。ま、よろしく頼む」
「国籍住所不定な美女もそれはそれで厄介なんだけど!?」
ちなみに美女な魔王さまはえろボイス(笑)
「このひとに似合う服その他もろもろ1式を、何セットか見繕ってもらえます?」
「……承知致しました」
自分のスウェットをブカブカなまま、しかし何故かステキに着こなした美女を店員さんに押しつけて、勇者くんはなぜにこうなった、と天を仰いだ。
そもそも、男から女になるなんて聞いてないぞそんな男のロマンを簡単にやるなんてうらやまけしからんではないかいいぞ美女バンザイ!
しかし、中身は元イケおじのまんまだったがっくし。
とりあえず、コスプレ衣装のままにはしておけないと、母親御用達ショップにきたのだが、母親に連絡されることは考えてないのか勇者くん。
支払いは気にしなくていいことを知っている店員は、心得たとばかりに着せ替えを楽しんでいる。下着からなにからなにまで必要なので、採寸しては叫んでいる。わかるよその気持ち。
勇者くんは両親健在だが、子供の頃からお金だけ与えられてきた立派な放置子でネグレクトされた子だった。よく捻くれなかったものである。
勇者くんにとって僥倖だったのは、キチンと常識を持った他人が近くにいたことだろう。ダメなものはダメ、いいことはうんと褒めてくれる。そんな大人達がいる地域で、皆に育ててもらった勇者くんは騙されても騙すことはないお人好しに育った。
だから、ハーレム願望も沢山の家族という認識だったかもしれない。アホである。
そんなアホな勇者くん、美女になった魔王さまのスポンサーになって散財しても余るお金を持っている。親から振り込まれるお金を使わなかっただけなんだけどね。
「中々な境遇だな」
「まぁ、それなりに」
親名義の自宅に購入した服を送る手続きを済ませ、ファミレスで食事をしながらの話で、勇者くんの過去を聞いた魔王さまは優雅にワインを飲んでいた。似合うわー。
「そういえば、名前なんて言うの?」
「ああ、お互い名乗ってなかったな」
「あ、きたきたユウくん。こっちこっちライカさん待ってるよ!」
「すみません、雨で予定が」
勇者くん改めユウくんは、魔王さま改めライカさんの所に駆け寄った。たくさんのスタッフが忙しく動いているが、ライカさんはお気に入りしか近くに寄せないので、ユウくんは一目おかれていたりする。
「遅かったな。ん? 濡れているぞ」
「雨降ってきたから。はい、たこ焼きは濡れてないよ」
「ちゃんと拭いておけよ。おお、ほかほかだな!」
美女の嬉しげ無邪気な笑顔の破壊力パねぇな。ユウくんの後ろでバタバタと射抜かれて倒れる阿呆が続出してるけど、当の本人は気にしてないし気にならない。
ユウくんにしてもいつものことなので視界に入らない。
あれから、スマホを買い与えて使い方から一般常識までをレクチャーしたユウくんは、初めてのお使いに出かけたライカさんが釣り上げてきたモデル事務所との契約に於いて保護者になった。
なにせ国籍も戸籍もない外国人なので、その辺の配慮を求めたとも言う。それを聞いた事務所の社長さんは素早かった。
ライカさんを記憶喪失者として届け出をし、不便だからとライカさんの国籍を日本で登録しユウくんの自宅で戸籍を仮登録し、未成年なユウくんに代わり保護者として対応の全てを引き受けてくれたのだ。優すぅいー。
金の卵を逃がさないためとも言う。
そんなわけで、現在ライカさんは自分で生計を立てられるようになり、ユウくんは高校を通信教育に切り替えて、ライカさんの付き人になった。元々行ってなかったし、ライカさん心配だったし。
今は大学は行っておこうと勉強しながら、ライカさんの傍にいる。
「ほれ、ユウ。あーん、だ」
「ちょ、まだそれ熱いから! 冷ましてよ」
「むぅ、熱いのがうまいのに」
「ライカの舌がおかしいんだよ? たこ焼きは熱いんだからな?」
「冷ましたぞ! ほれ、あーん」
「聞けよ人のはな、あぐっ」
「美味いか?」
「あつっ、熱いって! ライカ!」
うらやまけしからんと男性スタッフの僻み避難の視線もなんのその。
傍から見たらバカップルだが、気づいてないのはユウくんだけだろうなぁ。
あ、余計なこと言うな、ですね了解ですー。
知らぬ間に囲い込まれそうな、てか外堀ほぼ埋まったユウくんの未来はそれなりに明るい。
一旦これで完結つけときます。また思いついたら投稿します。今までありがとうございました!