010 怒りは滑舌を滑らかにするものさ
今回、ご都合主義によりレンさんの滑舌がかなり滑らかになっております。あしからず。そしてたわけは誤字ではありません。
怒りは勢いが大切だ! てかこれが怒らずにいられるか!!
「ふっざけんな!」
気づいたら叫んでた。テーブル飛び越えてバカの座るソファーに飛び移ると同時に、バカのタイつかんで睨みつける。
「なっ!?」
「その節穴の耳でよぉく聞け! そもそも私達だってあんたに会いたくなんてないんだよ! その時間があったらふたりでお茶したりお話したりたくさんできるんだから!」
「は、な」
「姉さまのためだというなら、あんたの妹愛の犠牲にするのをやめろ! 今すぐに!」
「ぎ、は?」
「姉さまのはわがままなんかじゃない! あれは普通の5歳児の行動そのものだ! むしろもっとわがままでもいいくらいなのに、姉さまはいい子すぎる!」
「確かに」
「な、おい?」
「拒絶されてんだよ気づけ! 姉さまはあんたのお人形なんかじゃないんだよ生身の人間なんだよまだ子供の女の子なんだよ!」
「まったくです」
「は!? いや、お」
「不愉快はこっちのセリフだたわけ! なんで姉さまがあんたの押しつける理想の妹を演じるのをやめたらわがままになるんだ! そそのかされたことになるんだ! 姉さまがやりたいことをやってなにが悪い!」
「ああ、リリアナ様は追い詰められていたのですね」
「な! な」
「純粋で優しいからこそ、あんたの前ではいい子だったとしても! 気づいてやるのが愛なんじゃないの!? あんたの愛は自分勝手で無理をさせるものだから姉さまが疲れちゃうんだよ!」
「なるほど」
「貴族としては正しくても、リリアナ姉さまの兄としては全然正しくない!! 高慢でわがままな男なんて、謝ったっていらない!!」
「……お」
「嘘だの謝罪だの許すだの、あんたに口にする権利なんてない! 姉さまも私もあんたがここにいるのを許してない! 傲慢に命令することしかできないバカは2度とくるな!!」
触りたくないタイを放ると、ドS執事に向き直る。
「つうやく!」
「いえ、通じておりましたよ。それもいつもより聞きやすかったかと」
「なんと!」
気づかなかったわ。怒りで滑舌がよくなったとか?
叫びすぎて喉がかわいたから、自分のとこに戻る。上がるの大変だから、ナディアナさんヘルプ。座らせてもらって、お茶のカップを受けとる。あー、美味しい。
ポカンとアホ顔晒してるシスコンバカ兄は、理解したのかどうか。……半分くらいはしとけよ、ド阿呆。
言わずにいられなかったことは全部言った。まだ5歳なのに、ダンスも座学もマナーも頑張ってる姉にこれ以上なにを望むんだ。高望みも大概にしとけや。
「りかいしてもしなくてもいいから、かえれば? じゃまだってことはわかったでしょ?」
乱れたタイを執事に直されてるのにも気づいてなさそうだな。私達より無駄に成長したその頭は空っぽか、そうか。
そんなだから気づかないんだよ。
座学の時間が終わっても、解らないとこを質問して理解できるまで頑張ってる姉さまも。
ダンスのステップを1個でも間違えたら、最初からやり直してマメつくってる姉さまも。
私が寝たあとに、私のためにハンカチに一生懸命刺繍してくれてた姉さまも。
本人は無意識かもしれないから、親代わりみたいになってることは言わないけど、無償の愛情には応えたいと思うじゃないか。
てか、そんなこと関係なしに、私は姉さまが大好きだ!
かわい気のない3歳児、大いに結構。私は私の大好きな人達が幸せで、隣で笑ってくれれば本望だ。刷り込み? 上等だね。
「……なん、か」
ん、なんだ?
「お前、大人みたいだな」
失礼な。私は立派なお子様だ。あんたよりはマシなだけさ。
「てか、じこしょうかいのあいさつもない、はくしゃくけのちゃくなんよりは、だれだってマシじゃないの?」
「え?」
「あ」
気づいてなかったんかい!!
これにルビふる気力がありませんでした。花粉は桜月をダメにします……。