そして魔王さんは自由を手に入れる
とうとう、勇者と対面せずに終わる(笑)
「どう思う?」
「どう、とは?」
宰相閣下の問いかけに、問いかけで返す。
意味わからん採寸後、部屋に戻ろうとしたら至急案件とやらで閣下に呼ばれた、疲労感パないレンさんです。
魔導師さんのオカン日誌の翻訳は、魔王と勇者が消えたのを確認後、速攻で撤退したまでで終わっていた。
魔の森を抜けたことまではわかっているけど、その後無事に帰還の途につけているのかはわからない。魔王の配下に追われてるのかもしれないし、普通になにもないかもしれない。
だからこっちは魔王討伐が成功したと大々的に発表もできずに悶々と(主に閣下が)してる訳だね。
だって、そもそも魔王さんてなにかした訳じゃないもの。魔王領治めてる王さまなだけで、人間に危害を加えたとかじゃない人(?)を、討伐するとかなんの冗談だよって思ったし、今も思ってる。
多分、大々的に発表したって、国民の反応も他国の動きもないだろう。むしろ、この国が責められる方が可能性が高い。その場合、責任は国王にいくわけだけど、あの愚王がとるわけないし、閣下の頭髪がストレスで後退することになること間違いなしだね。
「魔王(と勇者)は消滅したと思うか?」
何度読み返しても決定的なことは書かれてない報告書を前に、閣下の思考回路がショート寸前らしい。
「あくまでも、私の仮説でよろしければ」
「聞かせてくれ」
まぁ、私と琥珀で立てた仮説だけど。
「報告書から読み取れる事実はふたつ。魔王と勇者の存在が確認されないことと、その前に魔力が膨れて破裂したのにも関わらず、暴発しなかったことです」
魔王と勇者、大量の魔力保持者ふたりぶんの魔力は、この世界のどこにもない。報告書ではかれるおおよその日時、私達はその魔力に気づかなかった。
暴発していたら、魔王領なんて吹き飛んでるだろう純粋な魔力の塊は、結界があっても完全に消し去ることはできない。
つまり、魔力は消えたのではなく、なにかに使われたと考えるべきだ。
「なので」
そのいち。
お互い同等の魔力で相殺され、ふたりは消滅。
そのに。
片方が相手を屠ったが、魔力を消しきれず消滅。
そのさん。
お互いの魔力を使い、この世界から転移した。
「おすすめはそのさんです」
「なぜそう思う?」
「魔王さん、とても愉快な方だったらしいじゃないですか」
ヒマが嫌いだけど、お仕事はしたくない。楽しいことが大好きで、仲間思い。あれ、これホントに魔王? な人情溢れる性格だとか。
そんな人が勇者を見て興味を持たないはずがない。まして勇者の故郷なんてこの世界からしたら魅惑の宝庫。
「行ってみたい、行ってみよう。幸いふたりぶんの魔力(最大)がある。と思考を読んでみました」
「その考察だとふたりは生きていることになるが」
「勇者の故郷は、魔力のない世界ですから、勇者は普通の少年に戻るでしょうし、勇者と一緒にいる魔王さんは世間知らずな外国人と言ったところでしょうか」
「……この世界のみの魔王、と言うことか」
「おそらく」
簡単に想像できるよね。
あちこちキラキラした目で行きたがり、欲しがり、やりたがる魔王さんがさ。
資金源として頑張ってね、勇者。
推測がほぼ正解。