6 絶望を得た魚
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ふと目を覚ますと、煌煌とした光が目の前を照らしているのが見えた。
「なんだ・・・・この光・・・・は・・・・痛っ」
煌煌とした光は俺の四肢をつなぎとめている黄金の杭が放っていた。
動けない。
万力で全身を押さえつけられているようである。
「起きたか、邪悪なる魔を統べる王よ」
「貴様っ!!!!!」
当然のように杭を引き抜くことはできなかった。
「神器:鉄鋼神の黄金杭・・・・貴様ごときが何をしようが、抜けるものではない。これ以上戦ったことを後悔させるな!愚か者め」
「くっ、ミラは・・・・、マイオは逃げたのか・・・・??」
「ああ、貴様の思惑通り、奴らは俺が貴様を片付けている間に逃げた」
そうか、よかった・・・・。
ふと上を見ると、どうやらここはドーム状の穴であり、その最深部に俺たちはいることが分かった。
「きゃぁああああああああああああああああああ」
彼女らの声に似ている。
まさか・・・・
「ミラ!!!マイオ!!!!!」
「だが、人間でありながら神の力を行使することを許されたこの俺から逃げようなどとは・・・・・・、馬鹿な女は嫌いだ」
まぶしさを感じて上を見ると、黄金の光を放つ鷲が二人をつかんで降りてくる。
「神獣:ラーモル」
人間の二倍はあろうかという巨体を持つ鷲は二人を無造作に勇者の前に落とし、後ろに傅くように着地した。
「俺が召喚した神獣の一匹だ。貴様ら程度では、本来死ぬまで見ることはない獣だ。さて……」
「ひっ」
マイオが小さく悲鳴を上げる。
「この子だけは、この子だけは!!!」
ミラの悲鳴に近い懇願が聞こえる。
「ふむ・・、残り少ない魔族であるからして、殺すのは惜しい・・・・な。一人くらい生かしてもよいかもしれん」
「お願いいたします、この子だけは・・・・・、わたくしはどうなってもかまいません」
その瞬間、勇者の手に黄金の剣が握られる。
「やめろ!!!!殺すな!!!!」
勇者の黄金の剣が振るわれる。
しかし、ミラが絶命することはなかった。
「え?」
マイオは深々と刺さったそれを見つめながら微かに声を上げて、静かに倒れた。
「ま・・・い・お?・・・・そんな・・・・・、ねぇ、返事してよ!!マイオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!いやああああああああああああああああああああああああああ」
何が起きたのか、わからなかった。
ただ、一人の子供が、さっきまで生きていた人間が死んだ、その処理することのできない出来事に、頭が働かなかった。
ただ、小さく、何処から出ているのかもわからない声が漏れただけだった。
「うるさい女だ、貴様のせいでこの魔族は死んだのだ」と、勇者がため息交じりにつぶやく。
「私のせい・・・・って?」
「お前、魔族の分際で私に取引を申し込んだな。俺の決定が未定にもかかわらず、未来の俺の意思を覆してまでお前の意見を通そうとした。その不敬がその幼子を殺したのだ」
「それ・・・だけで?」
勇者の顔に怒りが浮かぶ。
「貴様・・・・・、死んでわびるがいい!!」
勇者の黄金の剣が振るわれる。
「うううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
黄金の杭に撃たれた四肢を引きちぎり、俺は悪魔の翼のみで彼女の前に飛んだ。
まさしく、その剣が彼女に刺さるその刹那、俺の体は剣と彼女の間に入り込んだ。
剣は俺の体を、腹から二分した。
「グフッ」
血を吐きながら倒れこむ。
どこかからかすれるような息が漏れる。
俺はどうやら死ぬようだ。
もう疲れた。
こんな世界では生きてられない。
そうだ・・・もしかしたら死んだら元の世界に戻れるかも、いや、絶対そうだ。
それに・・・・
俺は虚ろな目でミラを見つめた。
彼女を助けられたのだから・・・・、それで、いい。
彼女の口が動く。
もう聞こえない。
なんて・・・・・彼女はいっているの・・・か
「お前なんか、死ね」
嘘だろ・・・、なんで??
「お前さえ、現れなければ・・・・・、私も、マイオも・・・・・」
やめて・・・・死ぬ間際に・・・・やめてくれ
「殺されなんかしなかったのに!!」
それが彼女の最後の一言となった。
彼女の頭部が俺の目の前に落ちる。
その表情はまるでこの世の終わりを目撃したものの、言葉にしがたい怒りを映していた。
彼女の眼が俺を見ているようだ・・・・。
「や・・・・て・・・こっち・・・を・・みな・・・い・・」
やめてくれ・・・・こっちをそんな目で見ないでくれ
「驚いたな。人間がこの状態で意識を保てるとは・・・一応、殺しておくか」
見るな・・・・・・。
俺は目をそらし、目をつぶった。
一瞬の痛みと共に体が宙に浮き、ボールのように落ちた。
「首を切るのが、一番わかりやすい」
俺は首を切られ、死ぬらしい。
最後にこの世界を見ておかなければ・・・・・、まだ、希望はあるんだ。
元の世界に戻ったら命を大切に楽しく生きるんだ。
逃げる罪滅ぼしに・・・・、この世界を覚えておこう。
目を開けるとそこには絶望があった
そして意識が途絶えた。