5 4柱の悪魔と勇者
朝起きると、姉の方が見張りをしていた。
疲れているだろうに・・・・、だけど、この森であんな風に爆睡してしまった俺が悪いよな。
今考えれば、オーガが出るような森で助けるだけ助けて放置して寝るなんて。
「もう、起きられたのですね。おはようございます」
「おはよう。昨夜は悪かったな。その・・・・寝ちまって」
「いえ、もしモンスターが現れても私が起こしましたし、魔王様なら、気配で起きられたでしょう。見張りをしていたのは、万が一のためですから」
大変申し訳ないが、気配など感じたことがない・・・。
まぁ、ここで変なことをいって幻滅されたくないし、気をつけることにしよう。
「ん??もう朝なの?」
「ほら、マイオ!起きなさい」
「いや、もうちょっと寝るの!」
「コラ!」
「いいじゃないか、寝させとけ」
「ですが・・」
「構わないさ。朝食の準備をするから、少し休んでてく・・・・・」
「どうしたのです・・・・・」
黄金の光が輝きながら森を進んでくる。
「魔王様!勇者です!!勇者が来ました!!!」
「ゆ、勇者が!!!!?????逃げるぞ!!召喚、我に従え コルク」
黒翼を生やし、ミラと、マイオを背負って空に飛ぶ。
その時だった。
黄金の長槍が飛んできたのは。
「ぐっ!!」
翼を貫通し、飛行できなくなった俺は徐々に高度を落としていった。
槍は続けざまに放たれた。
「いたい・・・・よ、おねぇちゃ・・・・」
「マイオ!!!!」
マイオの小さな肩には黄金の長槍が刺さっていた。
「くそが!!!!」
地面に墜落すると、目の前には長身の黄金の神を持つ男が立っていた。
「貴様は・・・・」
「君が魔王・・・だね。ぼくは、勇者として召喚され、勇者として最高の器に魂を入れられることによって完成した最強の人間さ。魔族を捕まえるか、殺すことが僕の仕事なんでね。悪いけど、そいつ渡してもらえる?」
「断る!!!」
勇者がぽかんとするとニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。
「ならば、君たちは死刑だ。勇者たる私が命じる。我が意に答えよ!!英雄の神器よ!!!!」
虚空より現れた輝く黄金の装備が勇者を包み、勇者は一瞬にして重装備となった。
「もう一度だけ、問う。奴隷として生きることも道だろう。どちらにするかはそなたたちが決めよ!」
「・・・・・」
こいつらは、どちらが幸せなのか。
俺の魔王としての力を使えば、勝てるかもしれない。だけど・・・、もし負けたら・・・・
「まおうさまぁ・・・・」
マイオが袖を血にぬれた手で握る。
「たすけて・・・・、おねぇちゃんと、わたしを」
「…‥魔王様、あなたを、初代魔王の孫を信じます」
ふと、脳裏に爺ちゃんの顔が浮かぶ。
「頼まれたんだ。そして誓った。みんなが助けを求めるなら、俺は絶対に守って見せる!!」
勇者がため息をつく。
「どうせ勝てるわけないのに、まぁ、いいや。僕の力」
勇者が消え、俺の眼前に現れる。
「見せてあげる」
「グフッ」
勇者の強烈な蹴りを喰らった俺は吹っ飛んだ。
胃の中にあるものをすべてぶちまけてしまうかのような痛み。そして、頭にくぎをうちこまれたかのように頭痛が止まらない。
勇者ってのは、名前だけじゃないみたいだ
ミラとマイオが俺の名を叫ぶのが聞こえる。
「寝たら・・・・だめだ。倒れたら、奴を倒せない!!!!」
「なに???」
立ち上がった俺に驚いた声を上げる勇者。
「生憎、俺も魔王としての力も体ももらっているんでね。それに、お前と違って、俺は由緒ただしい魔王の後継者だ!!!!!
召喚 我が意に従え!! コルク ドラリア!!!!」
全身を緑のオーラが包み、背中には黒翼が生える。
「魔王らしくなったじゃないか・・・・、ならば、俺も手加減はせぬ」
勇者の手に黄金の弓と長槍が現れる。
「さっきの長槍は、矢だったのか?」
「ああ、この弓は特別なものでな。悪魔を滅する矢を無限に生み出せる」
「そりゃ、凄い。だが、俺だってなぁ!!!!無限に槍を生み出せるんだよ!!!」
「神器:神の矢」
「魔槍:黒針樹」
無数の漆黒の針のような木々が一瞬にして地中から飛び出し、勇者に向かう。
しかし、勇者の矢は簡単に木を突き破り、俺に直撃した。
「・・・痛っ」
かろうじて急所をはずれ、肩に突き刺さったヤリを抜きながら血を吐く。
「これは・・・・、厳しい気候の崖でのみ育つという黒針樹だな。鋼よりも固く、たやすく鎧も貫通する。だが、神の攻撃に、耐えうるはずがないではないか」
なんだこいつ・・・・・、強すぎないか??
だが、負けるわけにはいかない。
「召喚 我が意に従え コルク!!!! サイモン!!!」
全身を炎が覆い、背中に炎の翼が生える。
空から攻撃すれば、よけるのも楽だろう。
飛び上がり、空中から攻撃する。
「魔弾:火炎羽」
羽の形をした炎が勇者を襲う。
しかし・・・、涼しい顔をして立ち続ける勇者。
「なに・・・・なぜ・・・?」
「この鎧、神器 黄金鎧がある限り、私に魔法攻撃は効かない。物理攻撃を伴う魔法、あるいは、守護を貫通するほどの魔法なら話は別だが、お前はそれほどの力を持たぬようだな」
「くそ!!!重ねて召喚 我が意に従え メダン 魔剣:首切り」
炎を纏う大剣が現れる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
「そのくらいじゃ無理無理。神器:鉄鋼神の黄金剣」
虚空より顕著した煌めく黄金の剣を勇者が握る。
「ふっ」
なっ
首切りが破壊され、右腕ごと黄金の剣に両断された。
「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「醜い叫び声よ。魔王らしいといえば・・・・そうだがな」
「くっそ、てめぇ!!!」
「さて・・・、では先に、お前の魔族を殺すとしよう・・・か」
「させて・・・・、たまる・・・・・・、やくそく・・・・したんだ」
「しぶといな」
「召喚 サイモン ドラリア コルク メダン」
悪魔が黒い霧の中から四体現れる。
「おぞましいな。だが、すべての悪魔の力は我が力に遠く及ばなかった。手を尽くしたのではないのか?」
能力を得たとき、大体の使い方を理解した。この能力はとてもデリケートで、悪魔の力を本当は重ねて使うことが危険だということも理解している。
実際、三体の悪魔を使ったことで体の力が入らない。
だけど、今、無茶しなきゃいけないときなんだ!!!
「我が意に従え 四柱の悪魔どもよ!!!!」
四体の悪魔が黒い霧となり俺の体を包む。
その瞬間、全身に感じたことのない衝撃が走った。
そして、感情が生まれた。
すべてに対しての破壊衝動だ。
壊したい、奴をすべてを壊したい!!!!!
「はははははは!!!!!能力を制御できずに自滅とはな。愚かな魔王め。飲み込まれたか」
「guuuuuuooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!]
人間のそれとは違う、自分の声が聞こえた。
そこで俺の意識は途切れたのだった。