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死屍累々にて  作者: 譚
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暴力と悪魔

『こんばんは。』

髪が片目を隠すように伸ばしている少年は薄気味悪い笑みをたたえて、目の前の相手に挨拶をした。

下校途中の夜道。日の沈みが若干速くなり、夕方をまたがずに深い闇が一面を素早く覆う時間帯。時の流れで言えば、まだ人が慌ただしくいきかう頃合い。しかしこの道にはだれもいない。街灯が周りの暗闇を照らすばかりで車のヘッドライトさえ見えてこない。

『こ、こんばんは。』

立ち止まり、闇から湧いたような少年を見て周りを見て向き直り軽い会釈とともに挨拶を返す。

挨拶を受けたのもまた少年だった。公立高に通っている学ランを着た普通の学生。知らなくても挨拶をされたら、挨拶を返すのが礼儀だよなと、曖昧な応答でもってすれ違おうと横切ってから、片足を少し速く動かそうと力を入れた時だった。

『お前悪魔憑きだよな?』

『え・・・・。』

少年は 引き裂かれる。

学ランごと胴体を真っ二つに引きちぎられながら空中に浮いた自分の上半身から、後ろを振り返ろうと若干右足を前に出した下半身をはっきりと見ながら地面に落ちた。舗装されたアスファルトの上に無造作に受け身もなく転がって20メートルぐらい慣性に引きずられ止まった。

『おいおいまじかよ、、こいつ胴体か!!』

学ラン姿の少年の上半身を飛ばした少年が焦り出す。少年が殴るのに使ったであろう右手は肩から指先にかけて黒い肉塊になっていた。闇のような霧が滲み出し爪は獰猛な獣のものより鋭く。グロテスク彫刻で刻まれたガーゴイルの腕のように不気味だった。

『池内頭だ!頭ねらえええええ。』

不気味な人の腕に到底似つかわしくない異形の腕を学ラン少年の下半身に振り下ろしながら叫ぶ。

叫びよりも速く影の中から、ボロ雑巾のようになった上半に向けて距離を詰め、黒髪をなびかせ、勢いををそのまま鎌のようになった黒い脚を頭にむけて振り抜くかれた。

ボロ雑巾のような上半身が空中に打ち上げられる。

『ガードされた!!』

黒髪のポニーテイルをなびかせながら両足を黒い異形の姿に変えた少女が仲間に叫び返す。蹴り抜いた反動で速度が死んでしまい動けず少女は蹴り飛ばした少年を目で追って歯噛みする。

『腕も悪魔付きなのか…。』

空中に舞う上半身は右腕を黒く異形化させて頭部を守っていた。その腕の横から片目の瞳孔を赤く光らせながら池内と呼ばれた少女を見ている。

『やれええええ!神崎!!!』

きりもみ状態で自由落下する上半身に、右手と右足を異形化させた短髪の大男が膨張した右手を体のひねりとともに振り抜いた。

腕のガードを抜けて頭蓋に直接叩き込まれた少年の頭は破裂音とともに砕け散る。衝撃で頭だけでなく異形化した腕以外も空中で四散した。

『完全に消えたな…。』

何かが引っかかるのか片目を隠した少年は今し方完膚なきまでに叩き潰した学ランの下半身を見ながら二人の元に歩み寄る。

『胴体と腕で身体の4割を交換してたってわけね。』

いつのまにか黒いニーソックスと学生靴を元通り履いたポニーテイルの少女は、胸元で腕組みをして四散した残骸の残りカスに注意深く目を凝らしている。

『なんだか黒すぎないか?』

大柄の男が残った右腕を回収して合流する。全体的に筋肉質で声が若く、

『黒い霧が晴れない…。』

既に3人とも自身の部位を元の姿形に収めている。黒い霧は悪魔の部位変化時に覆製されるものだった。

『はぁ…。』

深い溜息が3人の耳元で息が掛かる距離を錯覚させるように聞こえた。

この3人とも 恐怖を感じるのはいつものことだった。この悪魔憑きの戦争は一人だけが他の悪魔憑きを犠牲にして願いを叶える儀式だ。本来なら集団行動などとれるわけもないが、計7人によるこの集団は違った。全員がなんの因果か幼馴染で腐れ縁。7人全員が悪魔憑きの戦争に参加することをお互いに隠して、出会ってしまったのだ。7人全員が一つの戦場にそして、彼彼女らは他の悪魔憑きを狩り終えた時に全員で最後の一人を決めようと誓った。殺される恐怖殺す恐怖。そのどちらとも向き合いながら1年もの間過ごしてきた。

その中の3人は後の4人が来るまでの間の時間稼ぎ件囮役だった。この街は悪魔憑きにとってある種の都市伝説をもっていた。60%の肉体を悪魔に売り、侵食の過程になりながらも願いのために全てを捨てた悪魔憑きの話だ。

その悪魔付きが死んだという風の噂を聞き、様子見に7人で獲物が来るのを待っていた。

4人はドス黒い悪魔の痕跡を追って、そしてこの3人は悪魔付きの匂いを追って。

3人は黒霧の中の、一点に目を奪われる。人型が浮かび上がってくる

『痛くないからいいけどさぁ。』

黒い霧の晴れた代わりに3人の目の前にいるのは、先程上半身と下半身を分離させ爆発四散させたあの少年だった。学ランも胴体も頭も下半身も全て元通りだった。

3人の息を呑む音が暗闇の静寂に響く。

『あんたらに質問…人を殺す?』

3人は一気にそれぞれの部位を悪魔化させる。

『オら゛ああああ!!』

『しねやああ!!』

『インポがあああ!!』

3人の雄叫びとともに放たれた一撃は黒い鉄のようなものに一切の容赦なく当たり砕けた。

悪魔化した部位の反動が人間の部位にまで届いたのを感じながら、3人は凝視した。

黒い霧を皮膚の間から溢れ出す血のように滲ませる身体を。全身を黒い鉄のような肉塊に変えた化け物を。顔は鬼のように角を2本生やし、牙を口から溢れさせ険しい形相に浮かぶ二つの目が瞳孔を月の光に反射して光る。3メートルの巨体の片手に3人の全身全力の一撃は止められていた。

いつ殺されるかわからない恐怖に震える3人に学ラン姿に戻った少年は静かに言った。

『女子にインポって言われると凄い傷付く…いや、別にインポじゃないんだけどね!』

3人の絶望感ある顔とは対照的に学ラン姿の少年は、はにかんだ照れ隠しを、浮かべながら自然体で返答した。











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